その1. ポメラニアンとピレネー

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「ちょ、待てよ穴子があるぜ! 穴子!」 「新商品か」 「試さないと! お前も買う?」  騒がしいその会話につられて、店内の商品を眺める振りをしてそちらを見る。そこにいるのは二人の男性客だった。  背の大きいのと小さいのとのサラリーマンコンビ。大きい方が体付きもがっしりとしていてより大きく見えるせいか、多分標準体型であろうもう一人が、より小さく見える。 「なんだよ。クーポンの割引明日からじゃん」 「アプリの割引は?」 「お。あった」  仲いいなぁ。  そんなことをぼんやり思いながら、美晴はまたコーヒーをすすった。  普段はお弁当を作ってくる彼女がこのコンビニを利用するのは、決まって水曜日。この週の中日だけお弁当作りをお休みして、ランチを外のお店で食べるのだ。そしてオフィスへ戻るついでに、コーヒーを買ってここで飲む。都内で一人暮らしをする二十八歳のOLにとって、それはささやかな贅沢だ。
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