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「まじか。天気予報のウソつきめ」空をにらむ。
授業を終え、予備校の玄関を出ると街の景色が朝とは違っていた。雪で街は真っ白になっていて、まだサワサワと降り続いている。
天気予報は今夜半から雪だったから、僕は自分の傘を持たないで家を出た。
少し考えて、鞄の底からくすんだ桃色に細かく深緑のペーズリー模様の入った折りたたみ傘を取り出し開いた。
「やっぱり婆さんの使う傘の柄だな、これは」
小学生の時に初恋の人が僕の家に忘れていった傘だ。彼女の亡くなったお祖母さんが使っていた物らしい。
彼女にはもう会えないし、たぶん会ってもらえない。でも彼女とどこかで出くわしたら返したいと大切にずっと鞄に入れていた。
普段なら彼女のお祖母さんの形見の傘は決して使わないけど、たまには傘としての使命を果たしてもらおうと思った、というのは言い訳だ。
ビニール傘を買っても良かった。でも、どんなものにしろ傘があるのに使わないという不自然さに納得ができなかったし、返す機会はどうせ一生くるはずもない。これはほとんど僕の物のはずだ。僕は初めてその傘をさした。
足早に駅へと向かう。
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