8人が本棚に入れています
本棚に追加
2
街は真綿の布団にくるまって眠っているように静かだ。雪は足首程の深さに積もり、一歩ごとギュッギュと鳴る。
変な模様の傘がダサすぎて恥ずかしかったから、僕が使用者だと知られないように傘で顔を隠した。
商店街の歩いていると「シんだ君?」と女の子に声をかけられた。
僕は新田ヒデアキだ。
小学生の時は「シんだ君」なんて少々悪意を感じるアダ名で呼ばれていた。それにしても久しぶりに聞いた。こんな場所で小学校の同級生に会うなんて珍しい。
「シんだじゃなくて新田だよ!」とお決まりのツッコミを言いながら背中を丸めて声の方を向いた。
「あ!」降り積もる雪が見せるまぼろしかと思った。
古くて汚い喫茶店の古ぼけたオレンジ色のアーケードの下に、初恋の彼女が雪宿りしていた。
「やっぱり、シんだ君だ!」彼女は嬉しそうに微笑んだ。
僕は脳内の情報処理が間に合わなくて、肉体もろもろの全機能が停止したけど、目だけは彼女をしっかりと捉えていた。まさか彼女に会えるなんて思っていなかった。
最初のコメントを投稿しよう!