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僕は息の仕方が分からなくなっていた。意識して呼吸をする。 直ぐに鼻息が荒くなっていないか心配になって、慌てて口から細く吐く呼吸法に変更した。 僕の吐く白い息と彼女の吐く白い息が、傘の下の空間で混ざり合っている。彼女の吐き出した息を、僕が吸っているのかと思うと恥ずかしくなって彼女から少しはなれた。 「肩に雪がのってるよ。もっと傘の真ん中にいなくちゃ」 彼女が僕の肩を指差した。 「ん? これは雪じゃないよ。フケだから」 「アハハ、フケめちゃ多いじゃんって、違うでしょー。ホント、シんだ君は相変わらずおもしろいなあ」 笑う彼女の顔と肩を見る。大丈夫だ、彼女の肩には雪は積もっていない。それに可愛らしい丸顔の鼻と頬は寒さで赤いけど、唇はツヤっとしたピンク色でとても元気そうだ。本当に良かった。 ギシギシと雪を踏む。 彼女が優しい声で話し出す。 「シんだ君、久しぶりだね。みんな、元気にしてる?」 「うん。まあ。そっちは?」 「うん、元気だよ。お母さんはシングルマザーとして奮闘してる。お父さんのいない暮らしも慣れたよ。もうあれから七年になるし」 「うん……」 僕達が生まれる前から、両親は家族ぐるみの付き合いをしていたらしい。その付き合いは世間一般の想定よりも深かったようだ。
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