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「わぁあああ!!!ねぇっ!ねぇねぇ!見て見てみてぇええ!!雪だよ!雪ぃいいっ!!」
次々に降ってくる真っ白な雪を前に、庭を駆け回る犬の如きはしゃぎようを見せるのはリンだ。
茶色がかったセミショートの髪を、犬の尻尾の如き勢いで揺らし、両手を広げ、踊るようにクルクルと回っている。好奇心をたっぷり含んだつり目気味の二重の目は、真っ白なふわふわの雪にくぎ付けである。
雪が降るほどに寒い気候であるのに対し、リンはやや軽装だった。小さな鼻や頬っぺたを真っ赤に染めている様子から見るに、寒さは感じているはずだが、それを一切感じさせないくらいにリンははしゃいでいた。
リンの楽しげな様子を少し離れた場所からスズは見ていた。服の上から外套を羽織っているだけのリンは手も顔も頭も外気にさらしているが、それに対しスズは重装備。てっぺんにボンボンをつけたニット帽で頭を覆い、まっすぐストレートの髪はニット帽の中にすべてしまい込んでいた。首には雪を連想させるようなふわふわのマフラーを装着している。手には毛糸で編みこまれた手袋。マフラーはスズの鼻元まで覆っているため、今のスズは目元以外はすべて外気から覆い隠していた。
「寒い。」
はしゃぐリンにスズはぼそっと言う。すぐにでも帰りたい。そんな様子だ。
「手ぇ、まっかっか!!まっかっか!!つめたぁい!!」
「冷たいというより、じんじんして痛い。やだ。動きたくない。」
「動くのも嫌いだもんね、スズ。リンはスズとなら何でも楽しいし、スズと一緒にいろんなこと見て、いろんなことやりたいけどなぁ。せっかく寒いとこ来たしスズと一緒に楽しみたかったけど…。」
「……も、ちょっと、頑張る。」
「ほんと??やったぁ!!!!あ!!寒いなら手ぇつなご!くっついていたらあったかいはずだよ!!!」
リンは嬉しそうに笑うと、スズの腕に絡まりつくと、そのまま歩き出した。リンとスズは雪が降り積もっていく真っ白な世界を二人で身を寄せ合い歩き続ける。2人の足跡は降り続ける雪にすぐに消されていった。
しばらく歩けば、町が見えてきた。街が見えた時、降り続く物の色が変化した。街の上だけ、色が違う。真っ白ではなく、真っ黒。いや、黒く見えているだけだ。地面に落ちて溶けるそれは赤だった。
「へぇ。赤黒い雪が降る町。ほんとにあった。」
「白い雪は見たことがあったけど、赤いのは初めてだね!!きれぇぇ!!!血の雨が降っているみたいだね?」
「ん。それを言うなら血の雪かな。これ、積もるんだ。黒に染まるのも中々良い。」
本来ならば白のはず。それが全て黒というのは異様だ。しかし、2人は楽しげにそれを見ていた。
リンとスズは町の中へと入ると、迷いなく進んでいく。観光客のように興味深そうにあたりは見渡していくものの、歩みに迷いはない。
二人が歩く町は活気がまったくもってなかった。町を歩く人の数は少ない。特に若者は少なく、老人が多い印象だ。顔色は青白くふらふらしている人も少なくない。町全体が廃れ、死にかけていた。
リンは楽しげに。スズは感情のこもらぬ目で町の様子を眺めながら、進んでいく。
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