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「おかえりーJK」
バイト先であるコンビニに自転車で滑り込んだ私に、馴染みの声が届いた。
「ただいま、おわまりさん」
そこにはいつもと同じ、疲れ切った笑顔のお巡りさん。
「あ、まーたイヤホンしてるな」
「音量低めだから」
いつもと同じお咎めに、ハイハイと軽く頷きながらイヤホンを外しケースにしまう。
「気をつけろよー、事故ったら洒落になんないからなー」
いつもと同じ台詞もいい加減聞き飽きた。
このお巡りさんはこの春まで我が家の近くの交番にいた。
青い制服で自転車をノロノロ漕ぎながらパトロールしている姿はお世辞にも市民を守っているようには見えなかった。
なんて言えばいいの?
頼りない?…うん、そう、頼りない。
引っ越して来たばかりの私に、『パトロールしていたらどうにも迷子になってしまったみたいでさぁ、悪いんだけど交番まで案内してくれないかなぁ』と声をかけてきたお巡りさんだ。
本当にお巡りさん?
と、疑いの眼差しを向けた私に、ヘラヘラ笑いながら警察手帳を見せてくれたっけ。
地域のパトロールをしてくれている年配のおじちゃん達に怒られていたり、おばちゃん達の井戸端会議に高確率で参加していたり、小学生達が河原で石を投げて水切りの腕を競い合っていれば一緒になって騒いでいたり、中学生が堤防の土手で段ボールで滑り降りていれば当然のように混ざって遊んでいたり…。高校生と追いかけっこしたり、大型犬に吠えられて怯えていたり。
大欠伸しながらパトカーを洗車している姿も見たっけ。
そういう姿ばかりを見てきたから、どうにも守られている感じがしない。
同じ交番にいる他のお巡りさんはちゃんとしたお巡りさんだったのに。
この春に近くの警察署に移動になったみたいで、青い制服から普通の服に変わったみたいだけれどもやっぱり頼りないまま。
最近は伸びた髪にクルクルのパーマをかけたらしく、それがまた目を引く。
なんであのパーマにしたのだろう?
っていうか、美容室の人なんで止めなかったんだろう?
あの頭…絶対に可笑しい。
「なんだよー、そんなに俺の事見つめてー、さては俺に惚れたな」
「…顔じゃなくてその頭を見つめていたの。なんでそのパーマなんだろうっていつも不思議に思っているんだけど、なんで?」
「フフン、似合ってるだろー」
「…じゃあバイトの時間だから、」
相変わらずのお巡りさんにヤレヤレと思いながらさっさとコンビニに入っていく。
「頑張れよーJK」
今時JKなんて呼ぶのはお巡りさんくらいだよ、軽く溜息をつきながら手をヒラヒラっと振っておいた。
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