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通学途中で見つけたこのコンビニは、他のコンビニよりも時給が20円高かった。
夕方から夜にかけて混み合うけれど、20時を回れば割と落ち着いてくる。
店長は気難しそうな人だけれど、言われたことを大人しく聞いていれば害はない。
「終わりましたー」
ドリンクの補充が終わりレジに戻れば店長がジッと私を見ている。
「トイレ掃除した?」
「え、また私ですか、」
「…」
「…行ってきます」
店長から無言の圧力。
狡いよね、私にふるんだから。
トイレ掃除は時間帯で担当が決まっている。因みに私はバイトに入ってすぐの17時頃だ。
この時間は大学生の佐藤さんが担当なのに、彼女はあまりトイレ掃除をやらない。
店長に注意され渋々やっても便器は汚いままで洗面台をペーパーで拭いただけで終わりにしてしまう。
酷い時はトイレでスマホをいじっている。
何度となくそれを注意されても直さないから店長は諦めたらしく、佐藤さんにお願いしなくなった。
その皺寄せが一緒に働いているバイトメンバーに降りかかってくるのだ。
狡いよね、ホント。
辞めさせれば良いのに。
「あ、すっげートイレ汚いんだけど、マジでちゃんと掃除してくれよー」
ちょうどトイレから出てきた同年代の男子高校生がすれ違いざま私に舌打ちしながら文句を言っていく。
「…すみません、」
小さくペコリと頭を下げた私の背後で、
「ありがとーございましたー」
佐藤さんの甲高い声が聞こえてくる。
そもそも彼女がちゃんとやらないから私が文句言われちゃうんじゃない。
イラッとしながらトイレに向かえば、確かにそこは臭くて汚い。
手袋にマスクに使い捨てのエプロン姿になった私は黙々と掃除を始めた。
だいたいね?男性は立ってトイレするからこんなに汚れるんだって。なんで座ってしないわけ?自分の家ならともかく共用するトイレでは座ってすればいいじゃない!
イライラしながら、便座も床も壁も綺麗に掃除してレジに戻れば、
「ちょっとー遅かったねー、マジでさっき凄い混んだんだけどー」
ポケットからスマホを取り出し眺めながら佐藤さんは私にチクリと棘のある言葉をくれる。
「なんか少し臭わなーい?」
おまけにクスリと笑ってそんな余計な事まで言う。
隣のレジに入っている店長は聞こえないふり。
ほんっと性格悪いよね、佐藤さんも店長も。
チラリと時計を見ればあと30分で上がりの時間。
「店長、私臭うみたいなんでついでにゴミの片付けやってきます」
そんな事を言っちゃう自分も性格悪いよね。
店長の返事も聞かず歩き出せば、佐藤さんの舌打ちが聞こえてくる。
最近は佐藤さんとシフトが一緒になるのが憂鬱だ。
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