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転校の手続きまで勝手にされたのに、だ。
私の気持ちなんてお構い無しに話を進めて、いざ、一緒に住みましょうとなった矢先にだ。
『悪いけどこの話はなかったことにして』
母は私にそうメッセージを送ってきて、それっきりだった。
祖父母が言うには、母は結婚するという相手に騙されたらしくかなりの額のお金を盗られてしまったのだと言う。
そんなの…私には関係ないじゃない…。
お別れ会までしてもらい、友達と涙を流し合って別れを偲んだのに。
また二学期から戻れって?
どんな顔して学校に行けばいいの?
それじゃなくても、母親が居なくて祖父母と暮らしているっていうだけで肩身の狭い思いもあったのに。
中にはそういう家庭の事情を知った上で冷やかしてきたり、馬鹿にする人だっていたんだから。
それでも笑顔で振る舞って、私は大丈夫、私は平気。そう言い聞かせてきたんだから。
それなのに…学校に戻ったら…もっと酷い事言われるに決まっているじゃない。
もしかしたら仲良くしてくれていた子達だって、もう仲良くしてくれないかもしれないじゃない。
部屋に閉じこもって声を押し殺して泣いた。
「新しい学校見に行ってみるか」
数日後、部屋に籠りっぱなしの私に祖父はそう話しかけてきた。
「ここよりはずっと都会だから面白いものもいっぱいあるぞ、探検してみよう」
「…だって、」
「見てきてからまた考えればいいじゃないか」
渋る私を連れ出した祖父母は、母と住む予定だった街を隈無く見て回った。
「お前が嫌じゃなければ、この地で一緒にやってみるか」
祖父の言葉に笑顔で頷く祖母。
戸惑う私に、
「家はたいしたところは用意できないが、田舎に帰れる家はあるんだから別荘みたいでいいじゃないか。こっちに住んで新しい学校行って新しい生活してみるのもいいと思うぞ」
祖父母は笑顔でそう言ってくれた。
私の事を誰も知らない土地で新しく生活する。
それはあの時の私にとってはとても大きな意味のある事だった。
祖父母が私の為にそうしてくれる。
申し訳なくて泣き出す私を、祖父母は力を込めて抱きしめて
「ごめんね」
そう繰り返し謝ってくれた。
新しい街で直ぐに入居できる中古の古い平家を祖父は用意してくれ、そこで新生活が始まった。
新しい学校は、それまでいた学校とは全く違くてクラスも多かった。
転校生は珍しくもないらしく、然程注目もされず、私なりのペースでそれなりにやって行く事ができた。
冬が来る頃には仲の良い友達も何人も出来たし、学校生活も楽しめるようになった。
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