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「お前か、俺の使いと合っていたのは」
俺は思わず驚いてびくりと肩を
震わせた。冷たく吐き捨てるように
言った男は静かに俺を見つめた。
その無言は恐ろしく、実際は多分
数秒程度の出来事だったのだろうが、
それは数時間にも感じられた。
…この人どっから出てきたんだよ。
空は暗く、この路地裏には街灯が
無いため男の顔は見にくいが、よく
目を凝らして見ると、その男が整った
顔立ちをしていることがわかった。
所謂イケメンとかいう部類の人間。
てゆうか何でこの人和服着てんの?
馬鹿みたいにぽかんと口を開けっ放しに
していると、いつの間にどこからか
やって来たクロがいつものように俺の
足にすりすりと顔を擦り付けた。
「お、あぁクロ? 」
動揺しながら名前を呼ぶと、クロは
嬉しそうに目を細めた。そして、俺の
持っているレジ袋を見ると、
「ふおぉぉっ、それは何にゃ、
何だか美味そうな匂いがするぞ! 」
…しゃ、喋った!??
そう思うと、口に出ていたのか
そりゃそうじゃ、とクロが返事をした。
…クロが喋った、何も無いところから
人が出てきた、目の前で起こったその
事実に脳がバグを起こした俺は思いっ切り
その場でぶっ倒れた。ゆっくりと薄れ
行く意識の中でどうしたのにゃ、なんて 焦ったように言うクロの声を聞きながらどうか起きたら全部夢でありますように、
そう願いながら俺は意識を手放した。
…夢じゃなかった。
クロの肉球でぺちぺちと頬を叩かれて
飛び起きると、そこは全く見覚えの無い
寝殿造?か何だったか忘れたがとにかく
そんな感じの場所だった。しかしそんな
謎の状況よりもボロアパート住みの
貧乏学生の俺は寝慣れないふかふかの
布団の方に戸惑った。俺が起きたことに
気付いたクロがわたわたと叫ぶ。
「ご主人! ご主人!
客人が起きましたのにゃっ、! 」
甲高い声でそう言ったと思うと、
あの時のようにまあ何処からともなく
あの男が現れた。…ああ何なんだこれ。
そう思い絶望している俺に男は近づく。
「起きたか、」
顎をぐいっと上に向けられてそう
問われた。ほんと何なんだこの人。
距離近いし強引だしなんかすごい
高圧的なんだけど。もうやだ。
そう思いながらも俺は返事をする。
「は、はい…」
「…」
…聞いてきたくせに無言なんだけど。
お互いに無言のまま、気まずい空気が
流れる中、クロのぽよぽよとしたお腹が
ぐうぅう、と大きく音を鳴らした。
その様子に俺は思わず軽く吹き出す。
数秒後、1人だけ笑ってしまったことが
恥ずかしくなって黙りこむと、和服の
男はその冷たげな表情を崩さずに言う。
「…とりあえず飯、食うか」
「…はい? 」
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