【 霜降りふりふり 】

1/1
前へ
/16ページ
次へ

【 霜降りふりふり 】

「ねぇ、もうそろそろいいんじゃない?」 「そうだな、あまり焼き過ぎて、焦げちゃったら霜降りの意味がないからな。よし、食べよう!」  一番最初に焼けたお肉を妻のお皿に乗せた。それを妻が箸で掴み、秘伝のタレにくぐらせ小さなお口へと運ぶ……。 「うう~ん、とろけちゃう感じ~。美味しい~♪」  妻の愛の頬が、かわいらしく膨らみ、少しピンク色に染まったように見えた。  それを見届けてから、俺もその美味しそうに焼けた高級肉を味わう。  最初は少しだけタレに付けて、お肉本来の味を感じたい。ちょこんとタレに付け、いよいよ口の中にパクリとダイブさせる。  う~ん、ほっぺたの筋肉がこの美味しいお肉に刺激を受けているようだ。舌の上でお肉がまるで跳ねているみたいだ。  それを歯でゆっくりと噛んでみる。実にジューシーで柔らかい。妻が言うように、まるで肉がとろけていくよう……。 「うまい……」 「でしょ♪ このお店に来て良かったね♪ ありがとう、弥太郎(やたろう)さん」  妻が久しぶりに、俺の名前を呼んでくれた。何年ぶりのことだろう。  今、俺は幸せの絶頂にいるのかもしれない。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加