第三章

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 ウェイターは内心イラついている様子で、インカムを手に取った。この人、いつもこんなことしてるのだろうか。ことりは呆れつつ、横目で熊川を見た。しばらくして、熊川とことりはホールに通された。ウェイターは注文を確認したのち、ごゆっくりどうぞ、と言って去って行った。ゴリ押しで入店できたのはいいが、確実にブラックリストに載ったのは確かだ。コンシェルジュリーに比べると狭い店内は、落ち着いた雰囲気で居心地がいい。席は10ほどあったが、若いカップルで埋まっている。立地がいい上にランチの値段も手ごろなので、予約が後を立たないのだろう。熊川はスマホで店内の写真を撮影していた。先程のウエイターが厳しい目でこちらを見ていたので、慌ててささやく。 「熊川さん、まずいですよ。目立ってます」 「あの入店の仕方で、すでに目をつけられてますよ。後で彼に話を聞きたいですね」  果たして、自分たちのような胡散臭い客に話をしてくれるだろうか。しばらくして、ランチのペスカトーレが運ばれてきた。料理を一口食べたことりは、ハッとして熊川を見た。 「すごい、美味しい」
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