25人が本棚に入れています
本棚に追加
一口食べた熊川はたしかに、と頷いた。偵察に来たことも忘れて、すっかり食事に夢中になった。食後のコーヒーを飲んだ熊川は、満足げに頷いた。
「素晴らしい味でしたね。それに、あの若さで南青山の一等地に店を出すなんて、相当努力されたんでしょう」
「なら、もう帰りましょうよ。反省して頑張ってるんだから」
「食事をして美味しかった、だけでは経費を請求できませんよ。厨房をチェックしてきます」
熊川が席を立つと、控えていたウェイターがついていった。すっかりマークされているようだ。それにしても、美味しかった。イタリアンがこんなに美味しいものだとは思ってもみなかった。お金に余裕があれば、再来店したいほどだ。ことりはメニューを手にして開いて、ディナーの値段を確認してみた。相場はわからないが、コンシェルジュリーよりは良心的な値段に思える。メニューをめくっていたら、そばのテーブルにいたカップルの会話が聞こえてきた。
「すごく美味しかったね」
「ほんと。前はひっどい味だったのにな」
ひどい味?その言葉が気にかかり、声をかけてみた。
「すみません。この店、以前と味が違うんですか?」
「え?」
最初のコメントを投稿しよう!