第三章

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 一口食べた熊川はたしかに、と頷いた。偵察に来たことも忘れて、すっかり食事に夢中になった。食後のコーヒーを飲んだ熊川は、満足げに頷いた。 「素晴らしい味でしたね。それに、あの若さで南青山の一等地に店を出すなんて、相当努力されたんでしょう」 「なら、もう帰りましょうよ。反省して頑張ってるんだから」 「食事をして美味しかった、だけでは経費を請求できませんよ。厨房をチェックしてきます」  熊川が席を立つと、控えていたウェイターがついていった。すっかりマークされているようだ。それにしても、美味しかった。イタリアンがこんなに美味しいものだとは思ってもみなかった。お金に余裕があれば、再来店したいほどだ。ことりはメニューを手にして開いて、ディナーの値段を確認してみた。相場はわからないが、コンシェルジュリーよりは良心的な値段に思える。メニューをめくっていたら、そばのテーブルにいたカップルの会話が聞こえてきた。 「すごく美味しかったね」 「ほんと。前はひっどい味だったのにな」  ひどい味?その言葉が気にかかり、声をかけてみた。 「すみません。この店、以前と味が違うんですか?」 「え?」
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