第三章

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 翌日のランチタイム、ことりはドアベルの音を聞いて、出入り口へ向かった。やってきた人物を見て、思わずあっ、と声を漏らす。来店したのは、「Y・S」のウェイターだった。後からやって来た熊川は、彼を見て微笑んだ。 「いらっしゃいませ、神崎様」 「え? まさか、熊川さんが呼んだんですか」  ことりは驚いて熊川を見た。熊川は頷いて、神崎を席に案内した。席に着いた神崎は、店内を見回したあと、じろっと熊川とことりを睨んだ。 「あんたら、やっぱり普通の客じゃなかったんだな」  熊川は神崎にメニューを手渡しながら、しれっとした顔で言う。 「普通の客ですよ。たまにはイタリアンも食べたいなあと思いまして」 「嘘つけ。こんなとこにまで呼んで、何が目的だ? まさか、うちの店を潰す気かよ」 「我々の店はフランス料理店。そちらはイタリア料理店で、しかも場所は南青山でしょう。商売敵になるには、いささか場所が離れている。潰す理由がありません」 「なら、なんなんだ?」 「冴島さんについて、少々お聞きしたいのですが」  熊川の言葉に、神崎が苦い顔をした。 「……なんかやらかしたのかよ。あの人、普通じゃないからな」
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