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「おや、オーナーシェフに対して、そのようなことをおっしゃっていいんですか?」
「あんただって、オーナーに不満の一つぐらいあるだろう」
熊川が笑顔で首を振ると、神崎が顔をしかめた。彼は水を煽り、皮肉っぽい口調で言う。
「で、俺の質問には答えないのか。ただ店の自慢をしたかっただけかよ」
「十五年前、サラリーマンにぶつかってきたと難癖をつけ、七人で取り囲み、二時間に渡ってリンチした。冴島ゆうきはその主犯です」
神崎は息を飲んで熊川を見上げた。冴島にいい印象を持っていなかったとはいえ、流石にそこまでは知らなかったようだ。熊川は呆然としている神崎を置いて、一旦厨房へ向かい、皿を運んできた。
「オマール海老のコンフィ。僕の奢りです」
神崎は丸々とした海老を見下ろし、憎々しげな顔を熊川に向けた。
「さっきの話聞いて、呑気に飯を食えって言うのかよ」
「あなたはまともな感性をお持ちのようですね」
「当たり前だ」
神崎はそう言って、皿をどかした。熊川は皿を厨房に下げて、神崎に問いかける。
「では冴島さんについて、話していただけますか?」
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