第三章

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「冴島さんは見た目もいいし、メディアにコネがあって何かと露出してた。だけど実際の料理の腕はからきしだった。客だって馬鹿じゃない。最初は盛況だった店は、開店から三ヶ月後には潰れかけてた。だけど二ヶ月前……冴島さんがスーシェフを連れて来た。それ以来、店の評判は鰻登りになった」 「スーシェフというのは?」 「西本薫。なんでも、冴島さんの十年来の友達らしい。暗い感じの人で、俺は挨拶ぐらいしかしたことない」 「その方が、「Y・S」の料理を作っていると言うことですね?」  神崎は熊川の問いに頷いて、話を続けた。冴島は西本に対して常に居丈高な態度で、彼に店を押し付け遊び回っているにも関わらず、皆の前で罵倒したり、休憩するのを許さなかったりするらしい。その上、西本は見習い以下の給料しかもらっていないそうだ。まともな料理人なら、西本の肩を持つのは当然だった。一度、そのことを抗議した者がいたが、即クビにされてしまい、以来誰も何も言わなくなった。西本も、唯々諾々と冴島にしたがっているそうだ。話し終えた神崎は、すっきりしたのか、来店時より態度を和らげていた。
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