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その後、神崎に連絡を繋いでもらい、西本と会う約束を取り付けるのに成功した。熊川一人では警戒されるからと、ことりもついていくことになった。「Y・S」から離れた場所で会いたいとのことだったので、西本とは一駅先にある喫茶店で待ち合わせをした。約束の時間から十五分遅れてやってきた西本は、疲れた顔で頭を下げた。西本薫は覇気のない顔つきをした、三十代前半ぐらいの男だった。ことりは彼を見て、コンシェルジュリーに来る前の自分を思い出した。搾取され、疲れ切った人間の顔だ。
「すみません、なかなか時間が取れなくて」
「いえ、構いませんよ」
西本は熊川の笑顔を見て眩しそうな顔をし、その横でジュースを飲むことりを見て不思議そうな顔をした。この二人はいったいなんなんだと思っているに違いない。飲み物を注文した西本は、癖なのか、そわそわとメニュー表やおしぼりに触れた。ひきつれた火傷の跡や、洗い物でひび割れた爪はまさしく、料理人の手だ、とことりは思った。西本は運ばれてきたコーヒーを一口飲んで、ちらっと熊川を見た。
「それで、私に用というのは」
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