第一章

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 ことりの体重は41キロ。内臓を抜いたら多分20キロを切るだろう。そうなった自分を想像し、ことりは身震いした。女手一つで育て上げてくれた母親に迷惑をかけるわけにはいかない。いっそ、誰かが息の根を止めてくれないだろうか。先月、新宿駅前で無差別に人を刺して捕まった男がいた。被害者の中には、幼い子供もいたという。なんとも痛ましい事件だ。なぜ、ああいう異常者は死にたい人間には寄ってこないのだろう。幸せな人間を不幸に叩き落とさないと満足できないのかもしれない。  五歳児に戻れたら。ことりは最近、そう夢想するようになった。しかし考えてみたら、五歳の時からことりの人生はろくなものではなかった。陰気でやせっぽっちだったせいで友達すらできなかったし、小学校ではいじめられていた。中学や高校では周りの女の子との差を感じてどんどん暗くなった。大学ではホストに出会い、生まれて初めて異性に優しくされて、青春と将来を台無しにした。  ことりはぶるっと身震いした。やっぱり戻れなくていい。この人生をやり直すなんて辛すぎる。
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