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何か焦げ臭い。ことりは眉をひそめ、のろのろと顔を起こした。妙に目が痛くて開けられない。なんとか目を開いてみると、部屋に煙が充満していてぎょっとする。なんなんだ、これは。ことりは咳き込みながら起き上がった。ボロボロのスニーカーをつっかけて、急いでドアを開ける。煙は外廊下にも充満していた。どうやら、火事らしい。パニックに陥った住人たちが、寝巻きのままで階下へ降りていく。ことりは急いでリュックに荷物を詰め、アパートの外に出た。赤橙があたりを照らし、サイレンの音が響いている。アパートからはもうもうと真っ黒な煙が上がっていた。次の瞬間、外階段が崩れ落ちた。集まっていた野次馬からうわあ、と声が上がる。炎は容赦無くアパート全体を飲み込んでいく。
こうして、ことりは住処を失った。
酔っ払いが歌を口ずさみながら、歌舞伎町の交差点を歩いていく。ことりはスマホを手に、あてどなくふらふら歩いていた。さっきから大家の平沢に電話をかけているのだが、全然つながらない。今夜は野宿をするしかないのか。ふと、松島ゆいの電話番号が目に入った。ことりはその番号を押してみる。ゆいはすぐに応答した。
「はい、松島です」
「あの……久しぶり」
「え? 誰」
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