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◆◇◆◇
「紫苑さん、可能性はかなり低いのですが、ラロはもしかしたら、僕と紫苑さんを呪っているかもしれない。だとすると、直接僕と紫苑さんに、お前は呪われていると告知してくるだろう。だから、ラロが告知をしそうになったら、耳を塞いで目を瞑って、告知されないようにして下さい。本当は現地にいないのが一番なんですが、どうしてもと言うのなら、これが条件です」
僕が指定した場所に向かう前、紫苑さんにこんなお願いをした。現地にいないのが一番なのだが、紫苑さんの強い希望で立ち会うことになっているのだ。なぜ、危険な思いまでして、ラロと僕の勝負を見届けたいのか皆目予想がつかない。
そして、今、僕と紫苑さんの前にはラロの姿がある。
「この場所を選ぶとは思わなかったよ」
「ラロさんでもノスタルジックな気持ちになるんですか?」
「おいおい、私だって昔を懐かしむくらいの人の心は残っているんだよ」
ラロがおどけたような表情を見せる。
僕が指定した場所は、僕が最初に呪いを知った真呪教跡地。とはいっても、その一角にプレハブを一棟急ごしらえで建てたものだ。今夜が終わったら、すぐに撤収できるように電気、ガス、水道などは何もひいていない。ただ、中は全面鏡張りにしてあり、部屋の中心に大きな蝋燭が一本揺らめいて、淡い明かりを灯している。全面が合わせ鏡のようになった鏡の中には、幾重にもなった蝋燭が不規則に揺らめいている。
「ところで」
蝋燭の灯火だけの薄暗い室内、ラロが口角を挙げるのがわかった。
「なぜ、わざわざこの場所、真呪教の跡地にしたんだい」
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