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(あっ……!)
つり目がちな瞳がこちらを見ている。
すぐにそらせばよかったのに、できなかったのは彼が話しかけてきたからだった。
「ねえねえ、あんたは名前なんてーの?」
「!?」
五十嵐くんは体だけでなく、気さくそうな笑顔もこちらに向けてそう言ってくれた。
つられてうしろの席の男の子──鈴木くんもこちらを見る。
その二つの視線に、わたしの体が硬直する。メデューサを見て石化した騎士のように固まってしまう。
あ。
これ、やばい。
喉の奥がひゅっとなる。
だ……大丈夫。
大丈夫だいじょうぶダイジョウブ。
「……相川……」
震えそうになる声を抑えるのに、必死で。
「りん、こ……」
名前を絞り出したけれど。
「です……っ」
顔から耳まで朱に染まったのが、いやでもわかった。
火照るほどに熱い顔。
心臓がドキドキと内側から叩いてきて胸が痛い。
五十嵐くんと鈴木くんがそんなわたしを見て驚いたことを感じ取って、思わずぎゅっと目を閉じた。
わかっている。
今、わたしの顔は──とんでもなく赤くなっているにちがいない。
極度の緊張症。それにくわえて、すぐ真っ赤になる赤面症。
昔からきらいだったこの体質は、高校生になってもやはり変わらない。
机の上でぎゅっと握った拳は、耳に入った五十嵐くんの声で、さらに手のひらに爪を食いこませる羽目になる。
「はは────りんごちゃん?」
「……!!」
その言葉に呼応するかのように、脳内で過去に投げられてきたみんなの声が、聞こえてくるようだった。
──あはは、りんごの倫子は真っ赤っかだ────ねえねえ、なんであの子すぐ赤くなるの?──うちらが悪いみたいだよね。──あいつお前に気があるんじゃねぇ?──えー、あいつ誰にだって惚れるんだろ。
思い出したくないもない、同級生たちの声。
その中から聞こえる、一番つらい声。
──お前さぁ……。
さんざん気を持たせてそれって……バカにしてる?
ちがう。
そうじゃないんだよ。
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