オリオンに啼く

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私は、岬の傍にある診療所の前に車を停めた。 そして、その診療所の戸を叩いた。暗い診療所に明かりが灯る。 「はいはい…。どうした」 中からそんな声が聞こえ、建付けの悪い戸が開いた。 「何だ。玖瑠美か」 父は、下着の上にだらしなく白衣を羽織った姿でそう言った。 「どうしたんだ…、こんな時間に」 父は診療所の外を見渡す。 「説明している暇は無いの…。ちょっと手伝って」 私は、車を指差して父に言う。 父は既に酔っている様子で、白衣の前を閉めながら車の後部座席で気を失っている男を覗き込んだ。 「おいおい。うちは野戦病院じゃないぞ」 父は後部座席に上半身を突っ込んで言う。 「いかんな…。こりゃ急がないと…」 父は私に診療所から車椅子を持って来いと言い、男の身体を車から引っ張り出す。 私は古い車椅子を押して、父と二人で男の身体を乗せた。
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