オリオンに啼く

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「あの…」 そんな言葉を絞り出す。 「何だ…」 男は痛みを堪える様な声で答える。 「ど、何処に向かえば…」 私は、ルームミラーを見ながら訊いた。 男は銃を構えたまま、シートに背中を付けた。 腹部を押さえているのが見えた。 それでようやく理解出来た。 ドーナツショップの前でぶつかったヤクザが言っていた「鉛を食らっている」という男がこの男だという事。 「お前、家に誰かいるのか…」 男は苦しそうに私に訊いた。 私は無言でゆっくりと首を横に振る。 「一人にしてはドーナツの量が多いな…」 男は鼻で笑っていた。 そしてゆっくりと身体を起こす。 「お前の家に行け…」 そう言うと助手席のドーナツの袋に手を伸ばし、袋ごと後部座席へと持って行く。
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