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瑞花の樹海に雪がちらつく季節になった。
はらはらと降りてくる灰白の花は解け残った雪の上に積もっていく。
精衛は手を伸ばしてその欠片を掌にのせた。
肉眼でもはっきりとその形がわかる。精衛は掌を返し、美しい形の結晶を落とす。
欠片は寒さで赤く染まった精衛の足元に落ちた。
「随分と降り積もったものだ」
新雪を踏む音とともに一頭の狼が姿を見せた。声の主はこの狼である。雪の中では見失ってしまうような、真っ白な毛並みの狼だ。
「おまえはまた飽きもせず探しているのか」
狼の問いに、精衛は空を見上げて答えた。
「見つからないものですから」
「何を探しているのかもわからないのだろう。いい加減諦らめたらどうだ?」
狼の言葉に精衛は首を横に振る。
「諦めたくないのです」
「なぜ」
「私にとって、とても大切な後悔ですから」
精衛は再び手を伸ばし、降りてくる雪の結晶を手に取った。
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