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人の世と黄泉の狭間にある瑞花の樹海には、毎年多くの雪が降った。ただの雪ではない。人の後悔が形を成し、結晶となったものである。その形は様々、美しい形をしているものもあれば、歪な形をしたものもある。
降り積もった後悔はやがて解ける。だが、その全てが解けきるわけではない。
積もり積もった後悔は解け残り、翌年新たな後悔がその上に積もる。樹海を埋め尽くすほどに。
精衛はこの森に住みつき、自分の後悔を探している。だが、困ったことに後悔の内容がわからない。それどころか精衛は森へ来る前の記憶をすっかり失くしていた。
無数に降り注ぐ雪の中から、姿形もわからない一欠片を探すなど不可能に近い。
それでも精衛は諦めることなく空を見上げた。狼は、飽きもせず空を見上げる精衛の姿をずっと見守ってきたのである。
止み間になると朽木に腰掛け、薄い氷の張った泉を見つめては、失った記憶を思い出そうとする。
いつもこうして試みるのだが、どれだけ考えても出てくるものは何もなかった。
精衛の頭の中は雪の降る森のように無音だった。
諦めて立ち上がろうとしたとき、座っていた朽木が崩れた。精衛の体は薄い氷を割り、泉の中に落ちたのである。
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