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 長い廊下を曲がると、温室があった。  ガラスの扉を引いて中に入ると、温かく湿った水の匂いが迫ってきた。  樹枝が混み合っているせいで上からの光が遮られ、あたりには緑色の闇が立ちこめている。 「こっちだよ」   祥一さんは先に立って案内してくれた。 「剪定の仕方を聞いておくのを忘れたんだ。伸び放題でそのうち天井を突き破りそうだろ」  石を並べた通路を進むと、小さな泉があった。  透明な水をのぞきこむと、底の方で砂礫が踊っている。 「クラゲはこのなか?」  僕が尋ねると、祥一さんは頭上を見上げた。  細い葉がたくさんついて、幹の曲がった樹の上に、ドーム型の天窓があった。  窓から差し込む光の中を青い小さなわだかまりが、ふわんふわんと漂っている。 「わあ~」  僕は思わず声を上げた。  それは見上げた僕の視界いっぱいに無数に散らばって浮かんでおり、上空に渦巻くわずかな空気の流れに乗って群れるでもなく衝突するでもなく、ウロウロと気ままに空気中を遊覧しているのだ。  ふわふわふわわん。  一匹のクラゲがゆっくりと高度を下げて降りてきた。  僕の目の高さで降下をやめ、今度は僕のまわりをぐるりと一周。  どうやら観察されているらしい。  キレイだなぁ。  光を透過して、クラゲの全身は輝いて見えた。 「そいつにするか?」  と祥一さんは言った。僕は気まずくうつむいた。 「お金、あんまり持ってないんです。お母さんに頼んでお年玉を下ろしてもらってきてからでいいですか?」  祥一さんは手にした鉢植えの花がらを摘みながら、 「売り物じゃないんだよ」 と言った。  でもタダで貰うというわけにもいかない、と思って黙っていると 「彼らが選ぶんだ」  と続けた。  それから僕に向き直り、 「クラゲを連れて帰って、どうするつもり?」 「それは…」
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