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3
空中をさまようクラゲの話は、僕の街や学校では有名な都市伝説のひとつだ。
妖精なのかモノノケなのか、海から遠く離れた街中に、突如ただよい現れる不思議なクラゲ。
テンサラバサラはおしろいを食べ持ち主に幸福を運んでくる。座敷童は身を寄せている家を盛り立て富を与える。
そして空中クラゲは万病に効く妙薬になる。
その話を聞いてから、僕はクラゲを手に入れたくて仕方なかった。
「まさか殺して食べちゃうの?」
上空にいるクラゲたちが動きを止めて、いっせいに僕を見た気がした。
祥一さんの表情は、葉影に沈んでわからない。
降りてきたクラゲは、僕の肩の上あたりに揺れながらとどまっている。それは思慮深く僕たちの話を聞いているようにも見えた。
「健太はこれがホントにクラゲだと思ってるのか?」
それは僕だって思っていない。だけど、
「だって噂で聞いたんだ。病院の窓から迷い込んだクラゲが死にかけていた人の病気を治したって」
「その人はクラゲを食べたの?」
僕は黙ってしまった。
どうやってクラゲを薬にするのか、都市伝説ではそこまで説明されていないのだ。
僕はクラゲを見た。
ふわん
クラゲは浮力を保つためか絶えず空気を吐き出しながら、それでも僕から離れていこうとはしなかった。
「まあいい、そいつを気に入ったなら連れて行けばいい」
「お金は…」
「いいんだ、売り物じゃないし、そもそもそいつらは勝手にこの温室に棲みついていたんだ。オレに代金を受け取る権利はないよ」
祥一さんはそう言ってちょっと笑った。
「ありがとう」
僕は嬉しくて思わず弾んだ声を出した。
「気をつけてな」
祥一さんは玄関まで送ってくれた。
クラゲは僕と一緒に空気の中を移動してついて来る。
僕は家へ向かって駆けだした。
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