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ひつじがいっぴき……
ひつじがにひき……
ひつじがさんびき……
(ん? ひつじ!?)
中学で数学教師をしている加藤は、とあるクラスで授業をしているとき、羊をひたすら描いている生徒がいることに気がついた。草野なつめという女子生徒だった。生徒に問題を解かせている間、教室を歩き回っていたときになつめのノートを覗き込んで、仰天した。そのノートにはびっしりと羊のイラストが描き込まれていた。綿あめに目と角が描き足してあるような、かわいらしい羊だった。なつめはその羊を黙々とノートに描いている。
よく見ると、なつめのペンケースも、羊のぬいぐるみのような形をしたものだし、消しゴムのカバーにも羊のイラストがある。そしてなにより、そのノートやペンケースの下の、机にも鉛筆描きの羊のイラストが埋めつくされているのが見えた。
(よっぽど羊が好きなんだな)
なつめはもう出題された数学の問題を解き終わっているようだったので、加藤はなつめの授業中の落書きを特に咎めず、そのまま授業を続けた。
「ああ、草野さん、社会の授業のときもあんな感じですよ」
加藤がなんとなくなつめのことを職員室で話すと、社会の山崎先生が言った。
「わからない問題があると、とりあえず羊で埋めてくるんですよ。『ひつじの乱』とか『ひつじ一揆』とか、『ひつじ騒動』とか」
「へえ」
国語の木下先生も会話に加わる。
「草野さんね、国語辞書のページの下の部分に羊が描いてあるんですよ。全ページですよ」
「へえ。でも全ページ描いてあるなんてよく知ってますね」
「こっそり、見せてもらったことがあるんですよ。パラパラマンガになってて、ページが進むごとに羊が増えていくんです。上から羊が降ってきて、羊の山ができるの」
「面白い子ですね。将来農家にでもなって羊でも飼うんでしょうか?」
「どうでしょうねえ」
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