Diary1:始動

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 私は今起こった出来事の詳細を忘れないよう日記帳に書き綴り、乱暴にそれを閉じて机の引き出しに放り込んだ。  外は分厚く腫れぼったい雲が降らす小雨に濡れている。雨は相変わらず降り続け、満開近くまで咲いた桜をせっせと散らしている模様。その様子が見えるのは、カーテンが半開きになっているからだと気が付いてそれを閉め、寝室を出て何食わぬ顔でご馳走の並ぶリビングまで戻った。  夫――奥野敦彦(おくのあつひこ)が、この雨のせいで濡れたと言い、用意していたご馳走に手を付けるより先に浴びているシャワーを終え、そろそろ来る頃だ。  今日は五度目の結婚記念日。  だから彼の好物のご馳走を沢山用意して、自宅で待っていた。  実はここ最近の敦彦は仕事で多忙が続き、機嫌が悪く一言も喋らない日が多々あった。  だから今日は二人きりでお祝いもできるし、早く帰宅する事ができたから上機嫌なのだと思っていた。でも、それは間違いだった。るりと逢引した後だから、機嫌が良かったのだ。  るり――山西るりは、私の小学校時代からの親友なのに!  少しタレ目の淑(しと)やか美人。ふわっとした艶のある柔らかそうな二の腕まである髪を、いつも綺麗にハーフアップにしている。何の変哲もないセミロングヘアの私と違って、上品な佇まいは儚く、大人しい彼女は絵にかいたような性格の良さ。更に実家はお金持ち。男女問わず人気があり、表裏もない性格。非の打ち所がない親友。  裏切られた、という言葉が一番しっくりくる。頭にその言葉を浮かべると、悔しさというか、やるせなさが溢れた。
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