4507人が本棚に入れています
本棚に追加
A4のコピー用紙にまとめられたR=山西るり(?)と書かれた文字が目に付く。
美奈や千秋との関係性は不明、更に女将の存在も浮上した。一体誰が、何に、どのように関係しているのだろう。
佐伯さんが資料に沿って、昨日の出来事を詳細に雄介に語った。彼は真剣な表情で佐伯さんの話に耳を傾けていた。
「――僕からの報告は以上となります。あと、昨日の奥様の様子はどんな感じでしたか? 何か思いつめていたり、逆に浮かれていたり・・・・変化はありましたか?」
「いいえ。特に変わった様子はありませんでした。普段通りだったことが、却って驚きました」
「成程。他にはいかがでしょうか? 気になった事はありますか?」
「るりの事ですが、昨日は始終自宅にいると聞いていました。それなのに出かけていたことが心外で。更に、今日も自宅にいると言っていました。それを確かめようと思って午後一番に自宅へ戻ったら、今日は居ました。刺繍が好きなので、窓際でそれをやっている所を自分の目で確認したのです。ただ、今までそうやって平気な顔で噓を吐いていた可能性があると思ったら、もう苦しくて・・・・」
雄介の言葉が詰まったので、堪らず目を伏せた。
その時、るりの様子が目に浮かんだ。昔から彼女の広い自宅に置いてある、オーク材を使用した、アンティーク調の洒落た濃ブラウンのロッキングチェア。彼女のお気に入りだ。
祖母が編み物や刺繍をするのに使っていたものを、るりが譲り受けたと聞いた。
小学校の頃に遊びに行かせて貰った時から置いてあるものだ。普通の家には無い、ゆりかご椅子。ゆったり座って優雅に刺繍する姿は、まさにしとやかなお嬢様。
そんな彼女が、雄介をここまで苦しめるなんて。虫も殺さないような顔をして、裏の顔は解らない。人は見掛けによらないものだ。
最初のコメントを投稿しよう!