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「雄介」驚かせないように、柔らかく彼に声を掛けた。
「映見・・・・」
「何か飲まない? どれがいい?」
「じゃあ・・・・スポーツドリンク、貰おうかな」
彼が所望したドリンクを手渡す前、ペットボトルのフタを開けてから渡した。酷い眩暈がする状態で、固いフタを開けるのは辛いだろうと思って。
雄介は普段からこういう優しさを見せる男だ。私も見習いたい。
「ありがとう、映見」
弱く微笑む雄介は美しく、このまま放っておいたら泡沫(うたかた)のように儚く消えてしまうのではないかと思うほどだった。
「負けないで、雄介。今は辛いと思う。でも、絶対に消えたりしないで。お願いよ・・・・」
「消えるなんてそんな・・・・それに、映見が泣くなよ」
気が付くと、苦しみの涙を流す雄介を見た私も泣いていた。
赦せない。
怒りが、悲しみが、憎しみが、様々な感情がこみあげて来る。
苦しみに押しつぶされそうな雄介の姿を見ると、余計に腹が立つ。
こんなにも彼を苦しめる悪魔の手から、早く開放してあげたいとさえ思う。
「ねえ、このままじゃいけないわ。苦しいからって、もういいです、離婚させてくださいなんて三つ指ついて別れる事を選択したら、それこそ相手の思うつぼだよ。雄介に落ち度はないの。だから、今は苦しいけれど耐えましょう。私だって一人だったらこんなに頑張れなかったけれど、佐伯さんもついているし、雄介の味方はいっぱいいるわ。だから、負けないで」
「ん・・・・」
弱々しい返事が返ってきた。
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