Diary1:始動

3/42
前へ
/340ページ
次へ
 ああ、惨めだなぁ。何時の頃からか満たされなくなった淋しい夫婦生活から、新しいスタートを切る為に自身にお金を掛けてお洒落をして、手料理は正直苦手だけど、今日の結婚記念日の為に本を読んで実践すべく用意を頑張ったし、豪華メニューでお祝いして、敦彦と久々に触れ合おうと思っていたのに。  不動産業界で働く彼は責任者になった途端、仕事のストレスと山のような業務と残業を抱えるようになった。  だから定期的にあった私との触れ合いも無くなり、ここの所夫婦生活はレスだった。  衝撃すぎて涙も出ない。シャワーを終えた敦彦は何事もなかったように、普段通りの夫の仮面を身に着けてリビングへ入って来る。今は涙が出ない方が良かったけれど、胸中は大嵐。 「へえ、豪華じゃん」  敦彦はスペイン料理が好きだから、パエリアに挑戦してみた。見た目だけは美味しそうに出来ているが、私はニンニクが苦手で味見をしていない。故に、出来上がりの良さは解らないけれど。 「乾杯して、早く食べよう。腹減った」  とっておきのシャンパンを開け、乾杯した。毒でも盛りたい気分にさせられる。
/340ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4505人が本棚に入れています
本棚に追加