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接客
「早速で申し訳ないですが、マジックバッグから商品を随時この箱の上に並べてくれますか?」
言われた通りに、鞄から商品を取り出して並べていく。ウワー、こんなに入っていたんだ。箱の上が商品で埋め尽くされる程中に入っていたのに、私は重さを全然感じていなかった。
「後ろで私が接客するのを見ていてくれますか? 暫くしたら交代して、接客が出来るか確かめさせて貰いますので」
商品が拡充されたためか、休憩していた冒険者達がワラワラと集まり出した。接客を始めたギルドのオジサンは、まるで一昔前に有った駅の売店の人さながらに、買い手の冒険者達を捌いていく。
半分くらいの商品が捌けた辺りで落ち着いたのか、買いに来る冒険者が途切れた。接客疲れで溜め息をつきながら、肩を解すオジサン。
「それじゃあ、交代して接客を試してみましょう。間違いがなければ止めませんから、商品が全部無くなるか二時間経ったら休憩にします」
後ろにいた私に向き直り、そう言ってから首に下げていたペンダントを渡してきた。
「このペンダントは魔道具で、簡易結界の中の物を取り出せます。この簡易結界は一度中に入れた物を許可無く出さない様にする為のもの。だから入れるだけならペンダントは身に付けなくても大丈夫だったのです」
先に言って欲しかったが、仕組みは良く解った。許可証代わりのペンダントを首にかけて、接客開始。オジサンから私に変わった途端、買い物を終えたはずの客達と、まだ買い物をしていなかった冒険者達が群がってきた。
「いらっしゃいませ、何れをご所望ですか?」
「回復薬と解毒薬と魔復薬を各々二つずつくれ」
「銀貨四枚と銅貨六枚になります」
「こっちは簡易食を四つだ」
「銀貨二枚になります」
「俺は・・・」
私は慣れた手付きで客を捌いていく。大体が銅貨五枚~七枚、高くて銀貨一枚だから計算が楽だ。
私を護衛していたパーティーの人達も買いに来ていた。買い終わると手を振って安全地帯から立ち去って行った。多分依頼が終わったんだろう。そうなると私の帰りはどうするのかしら?
考えながらも接客は続けており、商品が全て無くなる迄に二時間かからなかった。
「ご苦労様でした。まさか一度も間違えずに、しかもこんなに早く店仕舞いになるなんて、思いもしませんでした」
深夜のコンビニは接客一人だから、早く捌かないとクレームが来て大変だったからなぁ。レジ打ちしないで済む分、こっちの方が楽なくらいだ。
「帰りの護衛を募らずに済みました。私と一緒にダンジョンを出ましょう」
なるほど。オジサンと帰る可能性も有ったから、安全地帯まで案内するだけの護衛依頼だったのか。
帰りは魔物が殆んど現れなかったけれど、鼻歌交じりで蹴散らすギルドのオジサンは、其処らの冒険者なんかより遥かに強いと感じました。
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