第一章 再会

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 真希の送ってくれた公園は、美鈴が想像していたよりも広い公園だった。ただ、広い公園といっても遊具は公園の隅の方に固まって置いてあるだけで遊んでいる子供も遊具より自分達が家から持ってきたバドミントンや大きなシャボン玉、キャッチボールに夢中な様子だった。  遊んでいる子は真希の言った通り小学生ばかりだった。  美鈴は公園の隅のベンチに座りフリーター向けの求人情報誌を読むふりをしながら湊君を探した。バドミントンで遊んでいる子達は違う。シャボン玉で遊んでる子達は女の子だから違う。キャッチボールで遊んでいる子は湊君よりも年上に見える。遊具で遊んでいる湊君くらいの歳の子もいるけど、湊君っぽい子は見当たらない。  さっき、サッカーボールを持っている子と話してたしひょっとしたらあのサッカーボールを持っている子と一緒にサッカーをしに公園に現れるかもしれない。そう思いながら辺りを見渡していると後ろから声をかけられた。 「おばちゃん何してんの?」 「え?」  振り向くと、美鈴が探していた張本人がベンチの後ろに立っていた。隣にはさっきファミレスで見かけたサッカーボールを持っている子も一緒にいた。  平然と美鈴に話しかける湊君とは裏腹にサッカー君(と美鈴は呼ぶことにした)は不審そうな顔で美鈴を見ていた。無理もない。小学生が遊ぶ公園にフリーター向け求人情報誌を持った大人がベンチに座って遊んでいる子供をじっと見ていたのだから不審者と間違えられても無理はない。 「み、湊君!?」  美鈴の反応を見てサッカー君が隣にいる湊君に言った。 「このおばちゃん誰?湊の知り合い?」 「うん、とーちゃんの中学校の時の友達なんだって。だから、不審者じゃないよ」 「へー、そうなんだ」  “おばちゃん”やら“不審者”やら人を平気な顔で嫌な呼び方をするデリカシーのない小学生2人を美鈴は満面の笑みを浮かべて睨みつけた。 「お姉さん公園で日向ぼっこしてたの」 「小学生ばっかいる公園で?」  サッカー君がより不審な目で美鈴を見てきた。  確かに美鈴が湊君やサッカー君の立場なら怪しい大人がいたら絶対不審な目で見るだろう。彼等が自分のことを不審者と呼ぶ気持ちも分かるが気分の良い呼び方ではない。 「そ、そうよ。今日、暖かいよねー」  湊君とサッカー君が顔を見合わせた。 「おばちゃん」  先に口を開いたのは湊君だった。 「ん?何?」 「おばちゃんが用事あるのって俺でしょ?」  図星だった。流石翼の子だと思う。でも、ここで素直に認めるのは恥ずかしくて美鈴は遠回しに言った。 「お姉さん、湊君のお父さんにお話したいことがあるんだけどお父さんにいつが空いてるか聞いてもらえる?」 「えー、おばちゃん達この前TALK交換してたじゃん」 「そうだけど、言いにくくて」 「じゃあ、電話でもすればいいじゃん」  このクソガキ。もしかしたら翼に何か言われているのかもしれない。もしこの前のおばさんに会って何か聞かれても何も言ったらだめだ、とか。  美鈴がしていることは、一歩間違えたらストーカーにだってなり得る。でも、そんな相手なら翼も美鈴と連絡先を交換したりしないだろう。付き合うとか結婚するとかは無理でもこれからも良き友達でいるという意味合いはまだ望みはある。まだ、翼と繋がっていられる。 「お姉さんすっごく恥ずかしがり屋だから電話もできないんだよー。だから、湊君がお父さんに聞いてくれない?」  サッカー君が湊君の方を見て「このおばちゃん、どうする?」と呟く。確かに今の美鈴は、知らない小学生からしたら不審者と思われても無理はない。  でも、ここで美鈴が折れたらもう翼から返信が返ってこない以上、もう二度と翼と連絡が取れなくなるかもしれない。 「一生のお願い!」  美鈴はそう言って両手を合わせた。小学生に頼み込む30代の大人なんておかしな光景だけど、翼からTALKの返事が返ってこない以上こうするしか方法はないと思った。 「頼んでみてもいいよ」 「本当!?」  美鈴が湊君の手を握ると、湊君はヘヘッと笑った。
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