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緊張から手に汗をかきながら2年生の教室が並ぶ廊下を歩いていると『TALK』の通知オンがズボンのポケットの中でなった。
スマホを見ると、「新着メッセージがあります」というメッセージがきておりそれをタッチすると『青野美鈴』と言う文字が表示された。
『翼、先生との話終わった?』
そのメッセージを読んでドキッとする。文面は普通だけど、多分いつまでも帰ってこない翼に怒っているに違いない。
でも、だからと言って今すぐ美鈴のところに行って自分の気持ちを伝えられる自信はなかった。もう少しだけ時間が欲しい。
『ごめん、あと15分だけ待って』
既読はすぐについた。
『そんなに待たなきゃいけないの?長すぎ!』
やっぱり怒ってる。これだから女は面倒くさい。美鈴はそうでもないけど、自分達だって化粧やら買い物やらでたくさんこっちを待たせてくるくせに自分が待つ側になった瞬間めっちゃ怒る。
翼は適当に言い訳を考えると、それを『TALK』に打ち込んだ。
『先生との話が長引いているから校舎でも見て待ってろ』
そう打つと、スマホをポケットに閉まい怪談で一階に降りる。
一緒に卒業することができなかった教室の前に立ち止まり深呼吸をした。
ガラスにうっすらと映る自分に対し大丈夫。絶対大丈夫。と自分に言い聞かせる。
美鈴は結婚願望が強いし多分悪い返事が返ってくることはないと思う。でも、やっぱり2回目でも緊張することは緊張するし怖いことは怖かった。
クリスマスに美鈴に頼まれて安物のペアリングを買ったから指のサイズは知っているし、長い付き合いだから彼女の好みもなんとなく分かる。
だから、どんな指輪を買うべきなのかイメージは充分湧いていた。でも、やっぱり男が1人でデパートの高級ジュエリーショップに入店するのには勇気がいって翼は暫くジュエリーブランドが並んだフロアをくるくると周っていた。
香奈に婚約指輪を買った時は、こんなに悩まなかったしこんなに緊張もしなかった。なのになぜ美鈴が相手だとこんなに悩んだり緊張したりするのか疑問に思う。
4、5回その場を回ったところで翼は意を決して世界的に有名な宝飾品ブランドの店舗の前で足を停めた。ターコイズブルーに白字で書かれたその宝飾品ブランドの名前を見てごくりと唾を呑んだ。
美鈴には、チェーン店ばかりだと文句を言われていたけどこのブランドの婚約指輪を買えるだけのお金は貯めた。それでも店に入って会計が終わるその時まで自分の手は震えていた。
誕生日プレゼント用に別のジュエリーブランドでネックレスを買った時はあまり緊張しなかったし店員に「彼女さんへのプレゼントですか?」と聞かれても普通に頷けたのに…。
答えは半分見えているのにどうしてこんなに緊張してしまうのだろう。
その問いは何度自分に問いかけても答えは出てこなかった。
翼は、ポケットに入れた婚約指輪をぎゅっと握り締めた。上手く言える自信もこういう時ですら素直になれる自信もなかった。
でも、言うなら今日しかない。いや、今日が良い。絶対、10月22日の今日がいい。
翼が意を決して初めて美鈴に声をかけられた体育館へと渡り廊下に出ると、少し奥を歩く彼女の姿が目に入った。それを見てまた心臓がバクバクと鳴りだした。
不器用なアイラブユーを今日、伝える。
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