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教卓に立っていた担任の先生が「じゃあ、日直。号令かけてー」と言った。やった。やっとこれで帰れる。
美鈴が今まで置いていた教書や体操服、美術バッグといった大荷物を抱えていると前からスクールバッグ1つの翼が来た。
「美鈴、それ全部持って帰んの?」
そう言うなり笑う彼に美鈴はムッとした。こう言う時は、笑うんじゃなくて何も言わずに荷物を持って「帰るよ」とか言って欲しいなと思う。翼ですら最近は荷物が多かったのに終業式まで計画的に持って帰らなかった自分が悪いんだけど。
「先生がうるさいから…」
そう言ってスクールバッグと美術バッグ、体操服の入ったトートバッグを持つと彼は楽しそうに笑った。
「お前、引っ越しでもすんの?」
「だから、これは…」
そう言った途端、彼が美鈴の手から美術バックとトートバッグを持った。
「え…」
突っ立ったままの美鈴に彼は「スクバは自分で待てよ」と言って教室の出口に向かって歩き出した。
「あ、ちょっと待ってよ」
美鈴は教科書がたくさん入った重いスクールバッグの持ち手をぎゅっと掴むと、先に教室を出た翼の後を追いかけて教室を出た。
いつも通り2人で学校の校門を出ると、何かの当番なのかそこに立っていた学年主任の竹入先生に「いくら仲が良いからって休み中に変なことしたらダメよ。受験生なんだから勉強しなさい」と小言を言われた。それに対して「うるせー」と言葉が出たのはほぼ同時だった。
小坂の言う“変なこと”の意味は中3にもなれば聞かなくても分かった。別に翼とはそういう関係じゃないし、そもそも片想いで付き合ってもいない。
他のカップル達と自分達は違うのに教師達は付き合っていると勘違いしているのかよくそんな小言を言われていた。
暫く歩き中学校から少し離れた公園のベンチにいつものように腰掛けた。
「受験勉強やってる?」
先に口を開いたのは美鈴の方だった。
「少しだけ」
「えー翼も真面目ー」
「親がうるさいからだって。嫌々してるから内容は全然理解してないし」
「でも、すごいよ。私なんか全然やってない」
美鈴はそう言って背伸びをした。つまらない長い話をずっと聞いてたから眠いし体が疲れてる。
でも、こうやって好きな人と毎日一緒に登校して下校している自分は他にもいるであろう翼のことが好きな女子より優遇されている気がする。
3年間同じクラスで仲良くなれていつも一緒にいて彼の1番仲の良い友達になれた。所謂友達以上恋人未満の片想い。
気持ちを伝えることは簡単そうに見えて難しいしすごく勇気がいる。もしかしたらこの関係が崩れてしまうかもしれない。そう考えると、とてもじゃないけど告白なんてできなかった。
それは今日も同じで公園で暫く休んだ後、翼は住んでいるアパートまで送ってくれていつものように別れた。
好きだよと今日も言えなかった。受験さえ上手くいけば高校も一緒に通える。それまでには好きだよと伝えたい。
だから、少しだけ受験勉強も頑張ってみようかな。そう思った。
でも、三学期の始業式の朝いつも待ち合わせをしていたコンビニに彼は来なかった。
教室にもいなかった彼が転校したと知ったのは始業式の前のことだった___。
ベタだけど、第二ボタンとか欲しかったし受験勉強も一緒にしたかったし高校も一緒に通いたかった。
そんな美鈴の夢は水の中の泡のようにあっという間に消えてしまった。
この時はもう会えなくて見えない彼のことをいつまでも想い続けようと思った。
今もこの先も1番好きなのは、翼だけだと___。
子持ちの既婚者になった彼とフリーターになった美鈴が再開するのはこらから15年後の話____。
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