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翔太にインスタのアカウントの交換を持ちかけられたのは、美鈴がInstagramという名の“自慢グラム”を見なくなってから暫く経った頃だった。
「美鈴ってインスタやってるの?」
美鈴のトレーに乗ったきゅうりを箸で摘みながら聞いてきた翔太に美鈴は「あー」と呟きながらスマホを取り出した。
「やってるよ。でも、私最近あんまり自慢グラム見てないんだよね」
「自慢グラム?」
翔太が「何それ」とおかしそうに笑いながら聞いてくる。それもそのはずだ。でも、翔太にならこの話をしてもいい気がした。
「みんなの自慢話しか流れてこないからそう呼んでるんだ。なんか、見ててイライラするっていうか」
「例えば?まぁ美鈴のことだから何となく想像つくけど」
翔太は笑ったまま美鈴のきゅうりを口に運ぶ。本当にこの人はどこまでもスマートで美鈴のことをよく分かっている。
翔太のこの行動のお陰で美鈴のコロッケ定食から強敵・きゅうりは消えた。
「デート、結婚、子供。それしか流れてこないんだよ?」
「まぁこの歳になるとそうかもね」
やっぱりさっきの発言は取り消しだ。唯一の恋人なしの友達として、翔太にはここで少し同情して欲しかった。
「翔太はやってるの?」
「やってるよ。そんな大したことは載せてないけど…あ、交換しよ」
翔太はそう言って自分のスマホで美鈴のアカウントを検索し、フォローをタッチした。
「今フォローしたの俺のアカウントね」
「あ、うん」
美鈴が通知を確認すると翔太の名前が表示されていた。どこかの海をバックに派手なデザインの水着姿の翔太の後ろ姿が映ったアイコンは映えているけどやっばりどこかチャラかった。
でも、この人も美鈴と一緒で彼女がいないんだよなと思って彼のアカウントをタッチする。投稿されている写真は、案の定友達との写真や少し前にたまたま休みがあった美鈴と2人で行った焼肉食べ放題の時の写真といった恋愛とは無関係の写真だけがそこに並んでいた。
翔太の顔も少しチャラいし休みの日はパーマをあてて服も少し派手なデザインの服が多くてやっぱり彼女がいそうな男に見えた。だけど、どの投稿を見ても女の子の気配はなかった。
「あれ?美鈴もしかして俺のプライベートに興味ある?」
ヘラヘラと笑いながら翔太が聞いてきたのを確認して美鈴は首を横に振った。
「本当に彼女いないんだなーと思って」
「え?美鈴俺のこと疑ってたの?」
「そういう訳じゃないけど、翔太ってチャラいから」
素直に思ってたことを言うと、翔太は一瞬眉をひそめたがすぐに笑った。
「俺、これでも真面目に恋愛してる方だと思うけど?」
「ふーん」
遊んでそう、と言いたかったけどそれ以上は言わないないでおいた。でも、表情には出てるだろうな。そんなことを考えながらコロッケを口に運ぶ。病院のコロッケとはいえ、味は普通に美味しい。
一方、向かい側に座る翔太は日替わり定食の唐揚げを美鈴のお皿に置きながらニヤリと笑みを浮かべていた。
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