番外編 恋に溺れる私

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 翼のインスタを確認したのは、家に着いてからだった。  だが、彼のインスタは美鈴が期待していたような写真は1枚もなかった。彼が載せているのは、映えを意識しているのか綺麗に撮れている手料理の写真ばかりで香奈さんの写真は愚か彼が好きであろう綺麗なお姉さんの写真もなかった。 「あれでも一応子供いるのによくもまぁこんな手料理が趣味の独身の男みたいな投稿ができるなぁ」  1人でそう呟きながら画面をスクロールする。中学生の頃は、お互い料理すらできなかったのになと思う。  翼は、理系科目に関しては平均くらいの成績をキープしてたから美鈴よりは勉強ができたことは確かだし悔しいけど手先も器用だと思う。とは言え、いつの間にか家事スキルを身につけて女子力をあげていたことに驚きしかなかった。  香奈さんが教えたのだろうか。それとも一人暮らしの期間に自分で覚えたのだろうか。  もし仮に美鈴と同棲なんてしてたらこうはいかなかっただろうなと思う。  きっと、ほぼ毎日コンビニ弁当か外食だし家事1つでどっちがするかで喧嘩になる。仲の良いカップルとは程遠い同棲生活を送っていたに違いない。  それでも翼は根は真面目だからプロポーズの時くらいはカッコいいところを見せてくれるかもしれない・・・。  そこまで妄想して、首を横に振る。 「同棲なんて無理なのにね」  1人でポツリと呟く。  せめて、香奈さんがただの彼女の時に亡くなってくれたら…と不謹慎なことを考えてしまう。  今の美鈴がどう足掻いても翼の婚姻歴は変わらないし、香奈さんが奥さんであった過去も消えない。現実はそんなに甘くないことくらい誰かに言われなくても分かっていた。  それでも翼が好きでいる自分は少しずるいと思う。いつまでも初恋の人が忘れられなくて、彼を追いかけてしまうこの恋も小さなことで一喜一憂しているこの瞬間も全部ずるいと思う。  やっぱり、香奈さんは永遠のライバルだ。  そう思いながら翼のアカウントをスクロールしてると、かなり前の投稿が出てきた。  華奢な苺を手に持っている女の人と花柄のワンピース。本人に頼まれて撮ったのか、翼が勝手に撮ったのかはよく分からないけど自然な笑みを浮かべる女の人___香奈さんの写真が1枚だけ残っていた。  投稿日は10年前。つまり、まだ香奈さんが生きていた頃。  写真に添えられたコメントには、県内の農園の名前が記載されていた。  それを見てあーやっぱり、と心の中で叫ぶ。 「やっぱり」  今度は口で叫ぶ。 「バカ。バカバカバカッ!!」  翼も香奈さんもバカ、と言いたかったけどそんなことを言っても何も変わらないことは分かっている。だけど、好きな人の最初の彼女になれた香奈さんへの嫉妬や悔しさは消えなかった。  彼女でもないのにこんなに独占欲がある自分はどうかしてる。そう思いながら顔を膝に押し付けた途端、LINEの通話の呼び出し音が部屋に鳴り響いた。   相手をよく見ずにロックを解除し、スマホを耳にあてる。もうこの際、誰でも良かった。  でも、心のどこかでは少し期待してしまう。それが女心だ。  だけど、聞こえてきたのは好きな人ではなく、頼りになる友達だった。
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