番外編 恋に溺れる私

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「あ、美鈴?インスタ交換できた?」 「なぁんだ、翔太か」 「あ、俺が電話したらまずかった?」 「いや、別に良いんだけど」  そもそもことの発端は翔太の発言だし、と心の中で付け足す。口にしても良かったけど、それをしたところで八つ当たりにしか聞こえない気がしてやめておいた。 「で、あいつの反応はどうだったの?」 「交換はしてくれたけど、すっごい見たくない写真の投稿があった」 「見たくない写真?どういうこと?」  そう聞かれて亡くなった奥さん、と正直に答えるかどうか迷った。スーパーにいるところを翔太に見られていたくだりから翔太は翼が既婚者であることを知っている。  だけど、“亡くなった”なんて言葉を付け足すと少し話しすぎな気がして美鈴は咄嗟に頭に思い浮かんだ言葉をだした。 「元カノ…昔の彼女達さんの写真。彼、面食いだからめっちゃ美人だった」  香奈さんと結婚した時点で彼女は彼女でも恋人でもない。だがら、嘘はついてない。  そんな言い訳を心のなかで並べていると翔太は美鈴に話を合わせるように「そっか」とだけ言った。 「基本的には料理の写真しかなかった。料理記録用にインスタしてるっぽい。」 「まぁインスタってデジタル日記代わりになるしな」  デジタル日記、と言われて確かにそうだなと思う。  美鈴には、自慢にしか見えない惚気投稿やウェディングフォトも子どもは可愛いけどしつこいくらい流れてくる育児日記もみんな全部記録用に残しているのかとしれない。それを友達にも見てもらいたい…という承認欲求みたいなものなんだろうな、と考える。  でも、あそこでみんなが見ているところで「◯◯君大好き!」とか「◯◯愛してる」みたいなバカップル投稿はいかがなものかと思った。流石に30歳にもなれば若い頃によく見かけた「◯ヶ月記念」みたいな投稿は見なくなったけど、それでも付き合って半年とか結婚1年みたいな記念日投稿は流れてくる。まるで、そうでもしなきゃ不安だ、とでも言うかのように。  実際のところは、“彼氏いない歴=年齢”の美鈴にはよく分からない。だけど、女友達同士でお互いが遊んだ様子を投稿するのとは何か違う空気を感じる惚気投稿がやっぱり無理だとしか思えなかった。  実際、翼は香奈さんの写真に何のコメントも書いてなかったかはどういう意図であれを投稿したのかは知らないけどやっぱり見ていて気分の良いものではない。 「でもさ、昔の女の写真載せるってどうかしてると思わない?思い出だからそのままにしてるの?」 「まぁそうだね…強いて言うならその人のことがまだ好きとか昔の人たけど忘れたくないとかそういうのじゃないかな」 「そんなのアリ?」 「人によるね。でも、美鈴は嫌がりそう」  そう言って笑う翔太の言葉が図星で言い返す言葉がなくなる。  ここ最近の自分が不倫に近い行動に走ってるなんて知ったら翔太はどう言うだろう、と考えてみる。唯一、この恋の悩みを相談できる友達を裏切るようなことは人としてしたくなかった。 「嫌だよ。何で過去の栄光に縋りついてんのって思う」  それは自分のことでもあるけど、と心の中で付け足す。美鈴だっていつまでも初恋の人を思い続けているんだから似たようなもんだ。 「その人の気持ちは本人にしか分からないしね。でも、美鈴これで繋がりが増えたじゃん?」 「繋がり?」 「美鈴の好きな奴との距離。結婚はできなくても友達としてなら繋がっていられるじゃん」  結婚はできなくても友達としてなら。その言葉が心に突き刺さる。そうだ、現実ってこういうもんだ。  そう思うと、自分のなかで余計に燃える何かがあったけどそれを翔太に悟られたら面倒くさいから「そうだね」と明るく返し、別れの挨拶を交わして通話を終了した。  通話が終わり、ホーム画面に戻ったスマホ画面を眺める。美鈴の好きな犬のキャラクターとその彼女のラブラブな壁紙。  学生の頃によくあった恋が叶う待ち受けとかそういうのではないけど、何となくそうしていたかった。 ____  独占力が強い私は罪なのか、ずるいのか。  それすらも分からないくらい私は今日も先の見えない恋に溺れている。
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