第一章 再会

2/12
52人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
「まー、湊の言う通り30代はもう立派なおばさんだよな。俺も30歳だけど若く見られるし」  そう言って美鈴から少し離れた場所で男の子にボールを投げる。  ボールは一度バウンドして男の子の手に渡った。 「おばさんって呼んで怒る女の人って自分のこと若いとか可愛いって思ってるってらこの前とも君が言ってたぜ」 「湊の言う通りだな。化粧品代にすっげー金かけてそう」  そう言って親子でギャハハと笑い合う。わざわざ美鈴に聞こえるボリュームの声でこんな会話をするこの親子の奥さん又は母親はさぞかし綺麗な人なのだろう。知らないけど。  そういえば、美鈴と中学生の頃仲が良かった男の子もいつも口説く女子に対して余計なことをよく言う子だった。そこそこカッコいい子だったから女の子にモテようと思ったらモテるし、可愛い子を狙っては口説いていたけどいつも余計なことを言って女の子に振られていた。 「さっきお前がボール投げてもらったおばさんいるじゃん?」  名前を知らない相手とはいえ、仮にも同い年の男に「おばさん」と呼ばれてカチンとくる。ヤンキーに何か言い返す勇気はないけど。 「うん」 「なーんか昔の友達に似てるんだよなー、あのおばさん」  それを聞いて確信する。間違いない。自分だってこの人が昔仲が良かったあいつと似てると思っていたのだから。  美鈴の心の中にあったずっと昔に埋めたタイムカプセルが掘り起こされる。中に入ってある手紙に書いてあるのはもちろんあいつの名前だ。 「お兄さん」  さっきの仕返しの意味も込めておじさんと言ってやっても良かったけど、人違いだった時のことも考えてあえてそう呼ぶ。男の人は呼び方なんて女の人ほど気にしないかもしれないけど。  美鈴の知っているあいつかもしれないお兄さんが美鈴の方を見る。顔はあの頃より大人っぽくなったけど、中身は成長してなさそうだし顔もあの頃の面影が残っている。 「お兄さんって家この辺り?東中の卒業生?」  できるだけ軽く聞いてみる。いきなり名前で呼んで確認するのはやっぱり抵抗がある。  お兄さんの顔色が少し曇る。眉間に皺がよる。  そりゃそうだろう。美鈴がお兄さんの立場でも初対面な人に急に住んでる場所や出身中学校を聞かれたらきっとそうなる。 「お兄さんさ、私の知り合いに似てるなって思ってー」  お兄さんは「はぁ?」と言いたげな顔で「東中出身ですけど…」と呟くように言った。  よし、やっぱりそうだ。  確かな確信を持った美鈴は重きって聞いてみる。 「じゃあ、野上翼君って子ご存知ありません?」 「それ俺ですけど?」 「やっぱり!?私、青野美鈴!覚えてる?」  久しぶりの旧友に会えたことが嬉しくて翼に声をかける。  翼は「青野美鈴…」と呟くとすぐに表情を変えた。 「あの美鈴?東中の?」 「うん」  美鈴が頷いたのと同時に履いていたスカートをクイッと誰かに引っ張られた。 「おばちゃん誰?」 「えっと、湊君だっけ?お姉さんは、お父さんの中学校の頃のお友達なの」  湊君は、ふーん、と呟くように言って美鈴を暫くじろじろと見た後翼の方を振り向いた。 「かーちゃんの方が美人だな」  このクソガキ、と心の中で呟く。美鈴の知っている中学時代の翼も余計な一言が多い子だったけど、やっぱりその子どももそうだ。  そして多分だけど、この子の母親はさぞかし美人なのだろう。可愛い子を口説いてばかりだった翼の結婚相手だ。美人じゃない訳がない。  いつまでも独身で気分に合わせて職を転々としている良くも悪くも行動力のあるフリーターと違って翼好みの美人であろう翼の奥さんは幸せな毎日を送っているに違いない。
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!