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「それは言えてる」
翼の言葉に更にイラッとした。
でも、こんな奴が美鈴の初恋の人だった。
顔もそこそこカッコいいし余計なことは言うけど友達思いで優しいしスポーツもそれなりにできる。そして、誰よりも一緒にいて楽しい。彼の前では、素の自分を曝け出せていだと思う。
気持ちは伝えられなかったけど、美鈴は彼のことがずっと好きだった。
そんな甘酸っぱい中学生の恋は、今思えば本当に自由だったと思う。大人の恋と違って職業とか収入とか現実的なことを一切考えずに本当に自分が好きな人を好きだと言える。周囲に交際を反対されることもなかった。
あの頃の自分は、自由に人を想うことができていた。
「久しぶりの再会なのになんでおばさんばっか言うのよ」
「だって、本当じゃん」
本当こいつはデリカシーがない。ついでにその息子の湊君も。
「そういう翼だってもうおじさんじゃん」
「は?俺まだ30歳だし」
「私だってまだ30歳だもん!ほやほやの30歳!」
「なんだそれ、ほやほやって」
美鈴の言葉に翼が笑い出した。それに釣られて美鈴も笑う。彼の奥さんには悪いけど、やっぱり翼と話すのは楽しい。
大人が短い口喧嘩をしている間に湊君はいつの間にか1人でボール遊びをはじめていた。それを横目に美鈴は口を開いた。
「少しだけ話そ」
そう言って座っていたベンチに座らせ隣をポンポンと叩く。
「じゃあ、遠慮なく」
約15年ぶりに美鈴の隣に翼が座った。昔の友達とはいえ少し緊張する美鈴の膝にベンチの後ろに植えてある木の落ち葉がヒラヒラと落ちてきた。
そういえば、中学生の頃も2人で公園のベンチに座ってお菓子を食べたり話をしたり笑ったりしていた。別に付き合っていた訳じゃなかったけど、女子の友達といるより翼といる時間の方があの頃は長かった気がする。
「美鈴は仕事何してんの?その格好だからOLとか?」
翼に声をかけられハッとする。今日の服装は、ネイビーのカーディガンに白いブラウスにグレーのスカート。服装からしてその辺りのOLに見られてもおかしくない。このままOLだと嘘を通してもいいけど、翼に嘘はつきたくなかった。
「この近くに総合病院あるでしょ?」
「スーパーの前の?」
「うん。私、そこの小児科の受け付けのパートやってるんだ」
今時非正規雇用で働いている人なんて珍しくないのになぜか話すことに少し勇気が言った。彼が自分の結婚相手になることなんてもう絶対ないからそんな心配しなくていいのに。
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