第一章 再会

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「パートってことは美鈴も結婚してんの?」  翼が何気なく放った「美鈴も」という言葉が胸にグサッと突き刺さる。もし、今翼が独身なら美鈴は15年分の想いを伝えていたと思う。でも、彼は子供がいる既婚者だ。もし、恋愛関係になれたとしてもそれは昼ドラによくあるような不倫で普通の恋愛ドラマのような幸せな夫婦には絶対なれない。  20代半ば〜後半は美鈴の友達の結婚ラッシュだった。友達の結婚式に呼ばれるたびに独身の自分に対して幸せそうな様子を自慢するかのように見せつけられ3万円だけが消えていく。結婚した友達のなかには、今は仕事を辞めてのんびりパートをしている子もいるしバリバリ働いている子もいる。そして、みんな年齢は違えどもう子供がいて美鈴が遊びに誘っても誰も遊んでくれなくなった。  友達に誘いを断られるたびに美鈴は、自分だけがみんなに置いていかれているような気分になっていた。それは、初恋の人と再開できた今も同じだ。  美鈴は首をゆっくり横に振った。 「独身。私だけ」 「美鈴だけってどういうこと?」 「ぐっちもはるもなーちゃんもはぎーも莉沙もみんな結婚したんだもん!みんな子供いるし」 「みんなって東中でお前が仲良かった女子だけじゃん」  まだ男子がいるじゃん、と翼が笑って言った。やっぱりこの人は何も分かっていない。 「男子もだよ。もーりーもニッシーも石尾君もタカも原田もみんな既婚者だよ。原田は新婚さんだけどそれ以外はみーんな子持ち」 「そっちも全員中学の頃、俺やお前が仲良かった男子じゃん。独身な奴なんか探せばいるだろ」 「あー、あと翼も。ほら、みーんな既婚者。ほぼ子持ち」 「みんなって中学の仲間内の人間だけじゃんか」  呆れる翼を無視して美鈴は頬を膨らませた。中学の時、仲が良かった友達は同じ高校に進学した子もいれば別の高校に進学した子もいたりと高校以降はバラバラになってしまったけど、学校が多い地域だったということもありみんな家から通える市内の学校に通っていたため会おうと思えばいつでも会っていたし大人になっても転校した翼以外とはみんな連絡を取り合っていた。だから、彼等彼女等の情報は勝手に更新される。 「お前の職場にいないの?独身女性」 「いないよ。受け付けはおばちゃんが多いし。私より若い看護師なら独身がたくさんいるけどね」  美鈴はそう言うと、バッグに入れていたペットボトルの麦茶をごくりと飲んだ。 「美鈴も人のことおばちゃんって呼んでんじゃん」 「まーそうけど」  バツが悪くなって目を逸らす美鈴に翼は次の質問を持ちかけた。 「受け付けの仕事長いの?」  美鈴は首を横に振った。まだ、病院の受付の仕事ははじめて半年しか経っていない。  前に働いていたホテルの清掃員は仕事がキツくて半年で辞めた。その前の雑貨屋は、社員割引があって良かったけど1年間で飽きた。こうやって職を転々してる自分が嫌な反面それが楽だと感じる美鈴が心のどこかにいた。 「前は、ホテルの清掃員をしてた。その前は雑貨屋の店員。ファミレスのホール、コールセンター、コンビニ店員、食品工場、倉庫内作業。あと、単発でティッシュ配りやライブのグッズ販売、交通量調査員もしたことある」 「お前、色んな業界で働いてるんだな」 「うん、3年も続いたものはないけどね」  1番長く続いたのは、倉庫内作業の2年半だった。人と関わらない分楽な仕事だったがそれと引き換えに腰痛に悩まされて結局腰痛を理由に仕事を辞めた。 「最初に就職した会社は?」 「スーパーでレジ打ってた。総合病院の前にあるあの会社。給料は良かったけど、レジ店員って精神的に狂うし3年目で辞めた」 「そんなことしておばさん怒らなかったの?」 「怒らなかったよ。だって、私が社会人3年目の時にお母さん癌で死んだから」
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