第一章 再会

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 結婚相手だって30歳までには自然に現れると思っていた。でも、気づけば自分はその30歳がきてしまっていて結婚できたのは周りの友達だけ。思った以上に人生は思い通りにはいかないものだ。  美鈴がそんなことを考えていると、さっきまで隣に座っていた翼が立ち上がった。 「じゃあ、俺達行くわ」  そう言って湊君に手を引っ張っられながら公園を出て行こうとする翼に美鈴は慌てて声をかけた。 「あ、翼!ちょっと待って」  翼が振り返る。チャンスは今だ。 「あのっ、連絡先!連絡先教えて!」  せっかく初恋の人と再会できたのだ。翼の奥さんには悪いけど、自分は奥さんよりも先に翼と知り合っていたのだから彼の一人の友達としてこれくらい許して欲しい。  連絡先だけでも知っていればまた会える。会えなくても連絡がとれる。  例え、翼が既婚者でも子供がいてもどうにかして彼と繋がっていたいと考える美鈴がいた。  翼は一瞬、考えるような素振りを見せたがすぐにジャージのポケットからスマホを取り出すと画面をいじりながら言った。 「じゃあ、TALKのアカウントでいい?」 「うん」  美鈴は頷くと、無料コミュニケーションアプリの『TALK』を起動させ彼のQRコードを読み取った。  スマホの画面に『野上翼』という名前が表示される。15年ぶりに見たその名前が嬉しくて思わずニヤける美鈴に翼は「人のアカウント見て何ニヤついてんだよ」と笑みを浮かべると「じゃあ、またな」と言って歩き出した。  その場に1人残された美鈴の耳には、彼等親子の会話だけが聞こえてきた。 「帰ったらオムライス作ってー」 「時間かかるからどっか食べに行こーぜ」  公園を出て見えなくなるまで翼は決して美鈴の方を振り向いてくれなかった。もう子供じゃないから当たり前だ。でも、そんな彼を見て少し寂しくなった自分がいたのも確かだった。 「私もお昼買いに行こ」  美鈴は人がいなくなった公園でぽつりと呟いた。  ずっと忘れられなかった初恋の人に再会して連絡先を交換できただけでも満足じゃん。そう自分に言い聞かせながら自然と目に浮かんだ涙を溢さないように歩き出した。
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