第一章 再会

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「それは分かってるよ」  でも、いくら親友が相手でもそんなこと人に言える訳がなかった。絶対嫌な女だと思われる。 「じゃあ、その子のことは諦めるべきよ。美鈴ならいい相手見つかるって」 「じゃあさ、久しぶりに合コン行こうよ」  他の男に乗り換える気なんて尚更ないけど、何かのきっかけにはなるかもしれないと思い真希に言ってみる。20代半ばの丁度周りが結婚ラッシュだった時はよく真希や真希の友達や同僚達とよく参加したものだ。  朝までお酒を飲んで酔っ払ったまま男の人と話したり大人数でカラオケに行ったりした。でも、美鈴も真希も特に収穫はなくどの人とも一夜限りの付き合いでTALKのアカウントを交換してこちらからメッセージを送っても返信が来る人はあまりいなかった。少数派の返信が返ってきた人もやりとりできたのは1週間程度で気づいたら向こうにブロックされたり未読無視されたりすることばかりだった。  それは、真希も同じでよく2人で「男ってなんでこんな冷めやすいんだろう」と言いながら居酒屋で酔うまでお酒を飲んでいたこともある。ここ2年ほど、真希に合コンに誘われることはなくなっていたけど久しぶりに参加してもいいかもと美鈴は思えていた。  だが、目の前にいる真希は「あっ…」とばつの悪そうな表情を浮かべた。 「何?」 「美鈴には言ってなかったんだけどね、私結婚前提にお付き合いしてる人がいるんだよね…」  真希はそう言ってすぐに両手を合わせた。 「だから、ごめん!一緒に合コンとかはもういけない」  裏切り者。そんな言葉が頭に浮かんだ。  別に真希に結婚するなとは言わない。真希が幸せになってくれたら親友の美鈴も嬉しい。でも、美鈴の友達のなかでは唯一恋人がいない友達だった彼女に先を越されたことはショックだった。  美鈴の住んでいる地域は、田舎と都会の中間のような地域で田んぼが広がるゾーンもあるけど、チェーン店の飲食店も普通にあるし病院も美鈴が勤めている総合病院以外にも大きい病院がいくつかある。バスも電車もそれなりにある。要するに普通に生活には困らない地域なのだ。  都会なら美鈴くらいの歳でも独身の人の割合は多いだろうから今の自分ほど気にならなかっただろうし、田舎なら親か親戚の紹介で知り合った人と結婚していた未来があったかもしれない。どちらも美鈴のただの妄想に過ぎないが。 「そっか。相手、どんな人?」 「うちの会社の取引先の人。1歳歳上」  誰も年齢まで聞いてないし、と惚気る親友に対して思いながら美鈴は無理矢理笑顔をつくる。絶対、今の美鈴の顔は引きつっている。 「いつ結婚するの?」  後々知ることになるとはいえ、ご丁寧に「結婚前提」といういらない情報まで教えてくれた彼女が聞いて欲しそうなことをあえて聞いてみる。 「それは秘密〜」  真希は嬉しそうに笑ってケチャップのついたポテトを頬張った。  親友とはいえムカつく。真希に嫌われたくないから言わないでおくけど本当にムカついた。 「で、まぁ私のことはいいとして」  真希は真面目な表情になると美鈴に「美鈴いい?」と言った。
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