最終章 この恋が罪だと知ってても

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 公立高校の合格発表が出る前に行われた卒業式は、緊張からか少しピリピリした空気の中で行われた。  私立専願の子達や推薦で合格した子達はスッキリした顔をしていたけど、大半が公立高校の結果待ちで内心卒業式どころではなかった。でも、それは最初だけで誰か知らないおじさんおばさんの紹介や卒業証書授与がはじまるとそんな気持ちより眠気が襲ってきた。  長い。眠い。早く終われ。  そんな言葉を心の中で繰り返す美鈴とは裏腹にいつものごとく長い校長先生の話や無駄に長い生徒の送辞と答辞が終わり教室に戻った頃には、話の長さに眠気がマックスになっていた。  卒業式が終わり教室に帰ってぐったりとしている美鈴をつついてきたのは前の席に座っていたぐっちだった。 「美鈴、酒井戻って来るからはやく起きなよ」 「んー、でもあと話だけでしょ?」 「うん、まぁそうだね」  ぐっちはそう言うと、一呼吸置いて美鈴に問いかけた。 「美鈴、下級生とかに知り合いいる?」 「いない」 「じゃあ、式終わったらすぐ帰れるよ!ほら、頑張ろ」 「んー」  ぐっちが半ば強引美鈴を起こす。ぐっちの1つ前の席を見ると、クラス公認カップルの木嶋さんと小田君が最後だからか膝に座って2人でイチャついている姿が目に入った。  クラスの学級委員2人組のカップル。いつもは真面目なくせに休み時間になるとしょっちゅういちゃついているイメージが美鈴のなかではあった。 「ねぇ、ぐっち」 「ん?」 「あの2人どう思う?」 「あの2人?」  美鈴は顎をくいくいと動かした。  ぐっちは後ろを振り向くと「あー」と呟いた。 「あの2人、高校は別々になるらしいから別れるかもね」  別れる。その言葉を聞いてなぜか肩が軽くなった気がした。  好きな人と別れて不幸なったのは自分だけではない。木嶋さんだって今は良くても高校に入学したらそうなるかもしれない。  そう考えると、これまであまり話してこなかった彼女に少し親近感が湧いた。 「美鈴、ニヤつくなんて縁起悪いよ」 「え?私、笑ってた?」 「うん、すっごく。悪女の笑み」 「悪女?私が?」  そう言って自分を指差す美鈴にぐっちは「うんうん」と頷いた。 「なんか、女の嫉妬心丸出しって感じ」 「あんなの嫉妬するに決まってんじゃん」  そう呟いた美鈴に対しぐっちは「気持ちは分かるけどね」と言って同情した。 「あーあ、でもいいなぁ。彼氏。私も好きな人の第二ボタンとか欲しかった」  そう呟いた美鈴の頭をぐっちはポンポンと撫でながら行った。 「でもさ、美鈴も高校に行ったら翼よりかっこいい子見つかるかもよ?」 「誰も翼とか言ってないし!」  そう言って大きな音を立てて席を立ち上がった美鈴にクラス中の視線が集まる。  美鈴は慌てて席に座ると、声のボリュームを下げてぐっちにもう一度「翼とは言ってない」と言った。 「2回も言わなくても大丈夫だって。翼今頃どうしてるだろうね」  そう言ってぐっちが窓の外を見る。  緑の芝生がひかれた中庭や花壇に咲いた色鮮やかなパンジーを見るのも今日で最後なのだ。そう思うと、たくさん授業をサボったり隠れてお菓子を食べたりしていた学校もなんだか少し名残惜しく思えた。それと同時に1年生の時に特に嫌いだった数学や家庭科の授業があるたびに授業をサボったり人気のないプールの裏でお菓子を食べてた時はいつも翼も一緒だったなーと思い出す。2人で職員室に入ったことは数えきれないくらいある。ある意味2人とも職員室の常連だった。全然良いことではないとはいえ、それも今では良い思い出だ。
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