最終章 この恋が罪だと知ってても

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 その後、美鈴は第一志望だった公立高校の受験に落ちた。でも、同じ場所にいた隣のクラスのギャルっぽい女子は受かっていたようで「やった!バカでも受かった!」と同じく高校に合格した彼氏のヤンキーと喜んでいる彼女を見て美鈴はムッとした。  美鈴もギャルとヤンキーカップルも同じように授業はサボってたし授業に出席したとしても寝ていたことの方が多かったと思う。それに2年の途中から授業には頑張って出席するようになった美鈴と違ってこの2人は3年になってからもしょっちゅう廊下で暴れてたり先生に隠れてこっそり煙草を吸っていたような子達だ。なのにこの高校は、美鈴ではなくギャルとヤンキーを生徒として向かい入れた。 「おかしいんじゃないの?」  その場でそう呟いた美鈴の言葉に返事を返してくれる人はいなかった。  掲示板から踵を返して下を向いた歩き出した美鈴の近くにいた親子の会話が聞こえてきた。 「合格してて良かったねー、お昼ご飯なににしようか?」 「この前言ってたオムライス屋さんに連れて行って」  いいなぁ、あの子はこれから美鈴の好物のオムライスを食べるのか。こっちは、これから親に怒られるってのに。  高校の最寄りのバス停で合格者達と一緒にバスに乗り近所のバス停でバスを降りてトボトボと母親と2人暮らしのアパートに向かう。滑り止めで受けた高校は、制服も地味だし特にこれと言って何の特徴もない近くに住む中学生が受けるような私立高校。  そんな地味で何の特徴もない高校でも翼がいたらまた少し違ったのかもしれない。もし、仮にこの2人で公立高校に落ちたりしたらお互い慰めあっていたかもしれない。  別に高校なんてどこでも良かったはずなのにこれから母親に怒られることを思うとなんだか憂鬱な気分になってきた。  その後、案の定美鈴は母親に電話越しに怒られた。 「うちがお金ないの分かってる?」 「分かってるよ。でも、お母さんブランド物バックとか持ってんじゃん」 「当たり前でしょ?私のお金なんだから」  そう言った母親に美鈴はイラッとした。こんな時でも子供より自分の都合や好きなことを肯定するのかよ、と思う。 「それに彼氏と付き合ってんじゃん。どうせ今日も夜帰らないんでしょ?」 「あんたにそんなことは関係ないじゃない。とにかく、ケータイと高校のお金は出してあげるから教習所とかその後進学したいとかって考えてるなら自分で出しなさい。分かった?」 「はいはい。でも,私勉強嫌いだから進学しないと思う。教習所は行くけど」  そう言った美鈴の言葉に母親は「勝手にしなさい」と言って電話を切った。  ツーッ、ツーッと流れる音を右耳で聞きながら美鈴はしばらくその場に立ち尽くした。  もう母親に怒られたことも高校に落ちたこともどうでもよくなっていた。もう全て終わったことだ。  母親はこれからも同居人であり自分が生きるために金を援助してくれるおばさんであることには変わりないだろうし、何の特徴もない高校だって何か良いことが1つくらいあるのかもしれない。  でも、翼のことだけは離れた今でも諦めきれずにいた。恋ってそういうものだ。  本当に彼が運命の人ならきっとまた会える。その時は、ただただそう思った。  そんな昔の記憶を辿りながら美鈴は、彼に初めて声をかけた体育館から校舎へと続く渡り廊下でスマホを見た。  教室で遅刻してきた翼に一目惚れした中学の入学式。長くて退屈な入学式の後で比較的に誰とでも仲良くなれることを理由に同じ小学校の男子と歩く彼に思い切って声を掛けたあの時、自分は勝ち組だと美鈴は思っていた。顔からしてモテそうな感じはしたし、そんなイケメンと仲が良い自分ってきっと他の子より優遇されている。  でも、彼が好きなのは気が合う美鈴より可愛い子や綺麗な子という外見で判断するタイプだとすぐに知り最初はすごくショックを受けた。 母子家庭でお金があまりなかったから休みの日に仲間と遊ぶ時も雑誌に載ってる女の子のようなオシャレな服は着れなかった。それに趣味は、「美味しい物食べること」で彼が求めてそうな女子力なんて一欠片もなかった。おまけに素直じゃないし虫も「キモい」とか「怖い」とかは普通に思うけど他の女子みたいに悲鳴をあげるほど怖い訳ではない。  自分の女子力の無さや可愛くないところをあげだすと本当にキリがないけどとにかく自分は翼の好みの女ではないことは確かだった。  でも、今はこうして付き合っている。そう思うと、何だか不思議な気分になった。  そうやって色んなことを思い出したり考えたりしていたのにスマホの時間を見るとまだ10分しか経っていなくてまだお昼前だと言うのに急に疲れがどっと襲ってきた。 「いくら何でも長すぎ」  翼も時間も。  そう思ったのと同時にスマホの画面が着信画面に変わった。
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