ケリーの章 ㉔ 待ちわびていたプロポーズ

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ケリーの章 ㉔ 待ちわびていたプロポーズ

 振り出しそうな空の下…3月のまだ肌寒い町を私は上着も着ずに走っていた。息が切れるまで走り続け…気付けば私はアゼリア様のお墓の前に立っていた。 「ア…アゼリア様…」 私はアゼリア様のお墓に縋りついた。 「アゼリア様…聞いて下さい…私…ヨハン先生が大好きなのに…ずっとこのまま診療所に置いて貰えると思って…いたのに…先生は私の事が…本当はお荷物だったみたいなんです…。私…ヨハン先生に捨てられたくないのに…。アゼリア様と、ヨハン先生と3人で暮らしていたあの頃に…も、戻りたいです…」 アゼリア様…どうして私を置いて先に死んでしまったのですか?誰かを好きになるって…こんなにつらい事だったのですか…? ポツリ 頭に冷たい雨粒が落ちてきた。そして…あっという間に雨は本降りになって来た。 「雨…」 だけど、私はもうヨハン先生の元には戻れない。だって、私はヨハン先生のお荷物だったのだから。 私の居場所は…。 「アゼリア様…」 冷たい雨は容赦なく身体に降り注ぎ、急激な寒気に襲われて意識が朦朧としてきた。このままアゼリア様のお墓の側にいれば…大好きなアゼリア様が迎えに来てくれるだろうか…? そして私は完全に意識を失った―。 ****  頭が割れそうに痛い…。身体中がズキズキと痛み、酷い寒気で身体が凍りつきそうだった。 「ケリー…頼む…死なないでくれ…。お願いだ…。僕を置いていかないでくれ…」 誰かが私の為に泣いている…。その泣き声は本当に悲しげで…聞いている私の胸まで締め付けられそうになってくる。 お願い、どうか泣かないで…。そう言いたいのに、喉も痛くて声が出せない。 「おい!しっかりしろ!医者のお前が取り乱してどうするんだよ!」 「そ、そんな事言っても…もし、ケリーの身に何かあったら…」 え…?その声は…ヨハン先生…? 「だからって、誰がケリーを助けられるんだよ!医者のお前じゃないか!冷静になれ!」 誰かが酷く怒っている…。お願い、どうかヨハン先生を責めないで…具合が悪いのに外に飛び出した私が悪いの…だから…。 「いい加減にして、2人とも。病人の前で騒がないで」 ローラさんの声が聞こえる…。そして再び私は意識を無くした―。 **** パチパチと暖炉のはぜる音が聞こえる。 「う…」 オレンジ色にぼんやり照らされ部屋で私は目覚めた。 「ここは…?」 視線を動かし、次の瞬間驚いた。ヨハン先生が椅子に座ったまま眠っていたからだ。 「え…?ヨハン先生…?」 起き上がった拍子に額の上に乗せていたのか、濡れタオルが落ちてしまった。 「う…ん…」 ヨハン先生が、ゆっくり目を開け…そして私の顔を見た。 「ケ、ケリー…」 ヨハン先生は目を見開き…その目から涙が浮かんできた。 「え…?ヨ、ヨハン先生…」 「よ、良かった…」 「え…?」 ヨハン先生は溢れてくる涙を拭うことも無く私をじっと見つめながら言った。 「ケリー。き、君は…アゼリアのお墓の前で倒れていたんだ。発見した時には身体が火のように熱くて…肺炎を起こしかけていたんだ…もう少し発見が遅かったら…し、死んでしまっていたかもしれなかったんだよ…?」 「ヨハン先生が…私を…探してくれたんですか…?」 すると黙って頷くヨハン先生。 「部屋に様子を見に行ったら…ケリーの姿が何処にも見当たらなくて…靴も消えていたから…それで外へ出たのだろうと思って…ひょっとするとアゼリアのお墓にいるかもと思って探しに行ってみたんだよ…」 そしてヨハン先生は私の手を握りしめると言った。 「頼む…ケリー。もう心配掛けさせないと誓ってくれないか?ケリーにまで何かあったら…僕はもう…」 後の方は言葉にならなかった。でも…ヨハン先生。そこまで私の事、心配してくれていたのですか…? 私は…先生のお荷物では無かったのですか…? 「は、はい…分かりました…」 私はヨハン先生の言葉に頷いた―。
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