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旅路(1)
その晩、ゴディウィンが敷いた獣の毛皮にくるまり、アリアーネは夜を明かした。獣に狙われぬよう一晩中焚き火を絶やさず、ゴディウィンが火の番を請け負ったが、アリアーネもまた横になりながらも、殆ど眠ることは出来なかった。
『ハーミアを奪えば、ハバラは落ちる』
このナレン人の男は確かにそう言った。そして、それはアリアーネが生まれた時に下った神託とまるで似た内容であった。
『生まれた王女がキーリングルに留まる限り、都ハバラの栄光が失われることはない』
この神託があったからこそ、キーリングルの王と妃は末の娘をハーメットへと送り込んだのだった。どこへも誰にも嫁がせず、ハーメットの神殿の奥深くで生涯過ごすようにと。
『ナレンへ行ってはならない』
アリアーネは自らにそう言い聞かせる。
『祖国のためにも、私はハーメットへ戻らなければ。だけど、どうしたらいいの? どうやってこの男の目を盗み、神殿への道を引き返せばいい?』
既に神殿の者たちは私がいないことに気付き、追っ手を向かわせただろうか。彼らは私たちの痕跡を辿り、無事私を見つけ出してくれるだろうか。彼らが追い付く前に、仮に運良く逃げ出せたとしても、ほとんど外の世界を知らない私に旅など出来るのだろうか。
『あぁ、母なるハーミア! どうか私をハーメットに返して下さい』
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