旅路(1)

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 ゴディウィンは食い入るようにアリアーネの目を見つめた。彼女もまた彼の目を見つめ返す。男の黒曜石の眼差しが、ほんの一瞬だけアリアーネの唇から白鳥のような首筋の上をかすめていった。が、ゴディウィンは顔を背け、素っ気なくこう答えただけだった。  「俺は王子の命令に従っているだけだ。頼みごとは、王子に会ってから直接言うんだな」  と、アリアーネの手首を掴んで立ち上がらせ、  「あんたは王女なのだろう? 二度と俺みたいな者の前で膝まづいたりするな。さっさと食べて支度しろ。すぐに出発する」  王女の誇りをも擲ってまでした懇願も、まるで効果が無いと知り、アリアーネはただただ呆然とするしかなかった。泣きたくなるのを必死に堪えて、決して美味とは言えない果実を口に押し込み、簡単に身支度を整える。 ◇◇◇  それから、再び旅は続いた。追っ手に見つかるのを恐れ、ゴディウィンはなるべく人目につかない道を選らんでいた。その思惑が当たったのかどうか、アリアーネが望んでやまない助けは待てど暮らせど現れない。野外で夜を明かすのも、既に三度目ともなった。そして、四日目の朝のこと、ゴディウィンは珍しく町に立ち寄ることにした。  食料の買い入れと、その他旅に必要な品々を買い足すためで、市の立つ広場へと二人は向かった。アリアーネはゴディウィンの側から離れることなく、興味深そうに市で売られている商品を見ていた。
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