始まり

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 そういう訳で、アリアーネはその日も二人の付き添いを引き連れて、泉のある森へと向かっていた。サルカンドと呼ばれる泉へは、神殿の裏手にある森を奥まで入って行かねばならない。この聖なる森には、神官と巫女以外は立ち入ることが許されていない。誤って入りでもすれば命を落とすことを意味し、それ故神罰が下るのを怖れて、誰も近寄ろうとはしなかった。  しかし、その神域とも言える森に近づく若者がいた。顔に布を巻き付けて目立たなくしてはいるが、その物腰から異国の者と見てとれる。この若者は、もう五日も前からここ周辺に潜んでいて、神殿の様子や出入りする人々を抜け目なく観察していたのだった。が、アリアーネらが森へと向かうのを見るや、蛇のような用心深さで跡をつけ出した。  若者はナレン人だった。南部の町ケレアの出身で、ナレン王子ヴィクタリアスに忠誠を誓っている。キーリングルとナレンの間では、マクタ半島での覇権を巡ってもう三年も戦が続いているのだが、両者譲らない為になかなか決着を見ず、どちらの兵も疲弊する一方であった。ナレン全軍の指揮を預かる王子ヴィクタリアスは、この均衡を何とかして破ろうと聖なる山シーラへと使いを送り、伺いをたてると、  『キーリングルの守護女神ハーミアを奪えば、王都ハバラは落ちるであろう』  
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