始まり

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 ゴディウィンは先に地面に飛び下りると、無言でアリアーネに手を差し延べた。生まれて初めて馬に乗り、息も絶え絶えのアリアーネは、仕方なくその手を取って馬から下りる。見知らぬ異国の若者が手慣れた手つきで馬に水を飲ませるのを、彼女は草の上に座り込み、ただぼんやりと眺めた。  逃げるなら今だとアリアーネは思う。しかし、意思に反して体が動かない。長時間の乗馬で体が強ばり、頭はぐらぐらしている。これではとても走れそうになく、十歩も行かずに男に追いつかれるのは火を見るよりも明らかだ。  「今夜はここで野宿する」  馬にたっぷりと水を飲ませ、草が豊富に生えた窪地の辺りに馬を繋ぎ終えると、フェルディオはようやくクリスティアの所に戻ってきた。ついでに馬の背に乗せてきた荷物から固いパンと干し肉を取り出して、無愛想に彼女の鼻先に突き出した。  「これを食え。腹が空いただろう」  屈辱のあまり、腸が煮えくり返りそうになる。神殿では誰もが王女である彼女に一目置いていたのに。が、しかしアリアーネは何とかそれに堪えた。ひどく空腹でもあったし、何か食べておかねばいざという時に逃げられないと思ったのだ。彼女は無言でそれらを受け取って、黙々とを口に運んだ。  
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